研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
脳虚血により引き起こされる神経細胞死防御法の開発
2.研究代表者
研究代表者 遠山 正彌 大阪大学大学院医学系研究科 教授
3.研究概要
 神経細胞は低酸素負荷により容易に死に至り、虚血性脳障害を引き起こす。一方、アストロサイトは強い耐性を示す。本研究では、低酸素に耐性を示すことを可能とするタンパク発現の機序が神経細胞には欠如しているが、アストロサイトには備わっているという視点に立ち、これまで新規に単離した三種のストレスタンパクの機能解析を行い、アストロサイトに備わる虚血耐性機序を神経細胞に発現させることで神経細胞を守ることを目指す。また、孤発性アルツハイマー病患者では、プレセニリン−2のスプライシング異常産物が蓄積している。本研究では、この産物によってもたらされる細胞ストレスの機能と、スプライシング制御機構の解明を試み、アルツハイマー病の新たな治療法の開発を目指す。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 研究代表者は低酸素負荷がかかった時、ニューロンは脆弱であるのに対し、アストロサイトは抵抗性を示すことに着目し、その原因を調べた結果アストロサイトではシャぺロン様分子ORP150が発現して細胞死を防御していることを見出した。そのORP150をニューロンに誘導すれば神経細胞死を防げるのではないかという独創的な発想のもとに研究が進められた。その結果、ORP150以外にも低酸素負荷時に小胞体の機能を守る因子としてSERP1を、また新規ストレス蛋白としてLonを同定した。また、マウスにORP150を強制発現させると虚血ストレスだけでなく興奮性アミノ酸による神経細胞死も防御することが解ってきた。一方、プレセニリン−2 (PS2) に着目した孤発性アルツハイマー病の研究では、大きな進展があった。孤発性アルツハイマー病患者脳ではPS2遺伝子のエクソン5が欠損したスプライシング変種 (PS2V) が発現している。この異常なスプライシングを引き起こす因子を探索したところ、既知の蛋白質HMG-1であることを突き止めた。HMG-1蛋白質はpre-mRNAに結合してスプライシング異常を引き起こしているので、HMG-1と結合しプレセニリン−2遺伝子エクソン5への結合を阻害する類似因子を探索すれば、アルツハイマー病治療薬になりうると考えられる。また、血液中でのPS2Vを測定すれば、アルツハイマー病の早期診断法になりうると考えられる。このコンセプトをベースにして、医薬品メーカーとの共同研究を行っている。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 低酸素ストレスによる神経細胞死を防御するメカニズムは着実に解明されていると言える。当初の目的である虚血性疾患への適用に関してはアデノウイルスを用いた遺伝子導入を試みた段階で今後の課題である。一方孤発性アルツハイマー病を発症させるPS2のスプライシング変種が起こるメカニズムについては、その原因蛋白質を突き止めるというブレークスルーがあり、治療法の開発に前進したことは高く評価出来る。既に医薬品候補物質を特許化しており、薬品メーカーとの共同研究を行っており、今後の実用化が期待出来る。
4−3.総合的評価
 非常に活発なグループで精力的な研究がなされて、成果も着実に上がっていることは十分認められる。特に根本的な治療法がなく、社会的な問題になっているアルツハイマー病に対し、明確な機序に基づく治療法を提案出来るところまできたことは希有な成果と言える。しかし、研究があまりに順調に進展していることに懸念がないわけではない。in vitro study の結果の解釈は慎重を要し、実際の病態での検証も十分に行うことが要望される。基礎固めを十分に行いながら、開発へと進展すれば大きな成果が期待出来よう。
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