研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
脳関門排出輸送に基づく中枢解毒
2.研究代表者
研究代表者 寺崎 哲也 東北大学未来科学技術共同研究センター 教授
3.研究概要
 血液脳関門は異物の侵入から脳を守る『障壁』として働いていることが知られている。この研究では、更に血液脳関門は不要な老廃物や異物などが脳内に溜まらないよう種々の汲み出しポンプが解毒機構として働いていることを明らかにする。脳防御システムとしての血液脳関門の役割を明らかにすると共に、この汲み出しポンプと脳の老化との関連性やポンプを利用した新しいクスリの開発の糸口を探る。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 血液脳関門の輸送機能を解析する上で、本来の in vitro の機能を保持した不死化細胞株の樹立に成功した。脳毛細血管内皮細胞株、星状膠細胞株、脈絡叢上皮細胞株、網膜毛細血管内皮細胞株などを樹立し、さらに共培養実験にも成功した。これらの実験系を用いて、主として神経伝達物質の排出輸送機構を明らかにした。主な成果として、神経伝達物質の排出輸送系としてGAT2/BGT-1、ASCT2、神経伝達物質の代謝物や尿毒症物質の排出輸送系としてOAT3、脳内ステロイドの代謝物排出輸送系としてoapt2が重要な働きをしていることを明らかにした。当初予想されていなかったクレアチンの脳内への輸送系が存在することを見出したのは興味深い。
 このように、未知なトランスポーターを次々に発見しており、脳関門で排出輸送系の全貌が明らかになりつつある。さらにクローニングを行って生理的意義を解明することが望まれる。今後ともカタログを充実させることは重要な仕事であるが、どの目的でどのような drug delivery を提唱出来るかはまだ見えていない。筋の良いコンセプトを得るにはもう少し焦点を絞った研究が必要であろう。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 研究代表者が主張する血液脳関門の排出輸送系を明らかにすることに関しては、高いレベルの研究が行われており、内因性物質のカタログはかなり進展している。特に、in vitro 系の実験系を確立した意義は大きい。トランスポーターの遺伝子クローニングは今後の課題である。薬学系の研究者にはなじみの少ないノックアウトマウスの作成にも果敢に取り組んでいるが、残された期間を考えるとかなり急ぐ必要がある。臨床への応用に関しては臨床の専門家と共同研究を行いながらターゲットを設定し、焦点を絞る必要があると考えられる。
4−3.総合的評価
 本研究は研究代表者が提唱する独創的な脳関門輸送機構を明らかにしようとするものであり、多彩な実験を行いよく健闘している。新規なトランスポーターの発見により、研究代表者が提唱する機構は疑いようのない事実になったと言える。また予想以上に複雑な系が存在することも明らかになった。研究者としてその全貌を明らかにしたいという意欲は良く理解出来るが、一方「脳を守る」の観点からはもう少し焦点を絞って drug deliveryへの応用への道筋をつけることも要望される。そのためにクレアチントランスポーターの生理的意義を明らかにしたり、臨床研究者と共同研究したりすることが望まれる。
 研究代表者の努力により、このチームには優秀な研究者が集結し、研究室の activity が飛躍的に高まっていると考えられる。このポテンシャルを活用して更に成果を挙げることを期待したい。
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This page updated on April 1, 2003
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