研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
超天然物の反応制御と分子設計
2.研究代表者名
平間 正博 (東北大学大学院理学研究科 教授)
3.研究概要
 天然物の研究は、しばしば新しい化学のフロンティアを切り開く。本研究は、ビラジカルを発生してDNAを切断するエンジイン系低分子とそれを安定化して運ぶ蛋白質複合型抗癌抗生物質や、イオンチャネル蛋白質に結合して猛烈な神経毒性を発揮するポリエ−テル系天然物の蛋白複合体の立体構造と機能発現原理を明らかにし、また、天然物の機能を超える分子を化学合成する新しい方法論の開拓を目的とする。具体的には、1)1,4−ビラジカル活性種を安定化する蛋白質複合系生成の原理解明とデザイン、2)神経毒ポリエ−テルのイオンチャンネル阻害の原理解明と修復、3)人工ハプテンによるシガトキシン特異的抗体の創出、4)微量海産生理活性分子、骨そしょう薬ノルゾアンタミン、抗癌剤ハロモン等の不斉合成法と作用機構に関する基礎及び応用研究を進め、そのうちすでに原理解明に至ったものもある。
 本研究の基盤はもちろん有機合成化学にあるが、タンパク質複合体の構造と機能の関係を解明するため物理化学、分子生物学、構造生物学に関する共同研究体制をしいている。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 生理活性物質の作用機作を構造との関連において解明することは、新時代の天然物化学の大きな命題である。研究代表者は一般に極めて困難な課題に関し、卓越する合成化学を武器に、構造生物学、分子生物学及び物理化学も駆使して解明しようとし、すでにクロモプロテイン系抗生物質の作用や安定機構を明らかにした。専門家との協力体制も良く、外国の研究レベルと対比してもヒケをとらない。今後とも数多いテ−マを着実にこなすと思われるが、薬物の作用機作を解明していく方法論の整備にも磨きをかけて欲しい。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 天然物の機能解明には、複雑な構造の化合物を迅速かつ効率的に合成する手法の他に、その化合物の生理活性機能を明確にする方法論も準備する必要がある。この研究では、短期間のうちにこの二面について技術確立ができた。それをふまえて、シガトキシンのような複雑構造体の全合成に世界の誰よりも早く到達できそうである。今後この二面を駆使して薬物の全合成、及びそれを用いる薬理作用解析へ進んでもらいたい。充分期待できるチ−ムである。
4−3.総合的評価
 複雑な構造を全合成できる力と、その作用機作を解明する方法論を一つのチ−ムで作り上げ、実体として機能させたことは、今後の天然物化学に関するアプロ−チの方法を提供したこととなり、評価される。今後は対象物質毎に切り口が異なり、方法論もそれに応じて変化させなくてはならないが、共通概念を見出せれば申し分がない。

戻る