研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
完全フォトクロミック反応系の構築
2.研究代表者名
入江 正浩 (九州大学大学院工学研究科 教授)
3.研究概要
 フォトクロミック分子は、光の照射により可逆に分子構造を変える性質をもち、様々の分子物性が光変化する。本研究では、フォトクロミック分子に極限性能(高効率性:主反応量子収率=1、高選択性:副反応量子収率=0)を付与し、新規な光学材料とすることをめざし、高性能ジアリ−ルエテン分子系の分子設計・合成・物性評価、さらにはそれらの分子からなる単結晶の作成と光反応機構解明及び固体物性評価を行なっている。また、これらの分子をスイッチ部として含む分子磁性体・ポルフィリン超分子などの光機能分子の合成を試みている。光反応ダイナミックス等の光物性評価及び光機能分子磁性体・ポルフィリン超分子の合成については、共同研究グル−プの研究支援を得ている。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 良質の有機フォトクロミック分子として、研究代表者がすでに提唱していたジアリ−ルエテン系について、その極限性能を求めるという困難が予想される研究だったが、研究代表者の広い視野と情熱で、目標である量子収率100%が単結晶で達成された。平成11年11月に開催された第3回フォトクロミズム国際シンポジウムでも、世界中の多くの研究者がこのジアリ−ルエテン系分子を使用しており、世界をリ−ドしていることがよくわかる。今後は光応答性液晶等、夢の材料の実用化に向かうこととなるが、大いに期待できる。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 単結晶で量子収率100%、活性化エネルギ−0という系の達成、光劣化メカニズムの解明と対応策、スイッチ機能を持つ分子磁性体の合成等、特筆される成果を生んだ。特に、単結晶状態で光をあてることにより、結晶が全体に高精度で伸縮することを利用して、光エネルギ−を直接機械エネルギ−へ変換する途を拓いた。この成果はサイエンス誌に掲載され、工業界からも熱い視線を浴びている。アモルファス系も含め新しい光学材料の誕生が近いと予感される。
4−3.総合的評価
 世界をリ−ドする研究である。特に単結晶で量子収率100%の系が出来たことは、基礎から応用までの道がつながったことを意味する。オプトエレクトロニクスへの応用は数限りなくあるので、今後共同研究者らとともに、分子構造と基礎物性の関係をおさえることで、実用化が近づくと思われる。楽しみの多い研究である。

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