研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
糖鎖シグナルを介する生体防御システムの解析
2.研究代表者名
川嵜 敏祐 (京都大学大学院薬学研究科 教授)
3.研究概要
 生体防御の仕組みは、先天性免疫と獲得性免疫にわけられる。獲得性免疫が高等動物の特性であるのに対し、先天性免疫は下等動物より高等動物まで普遍的に見られるより基本的な生体防御機構である。最近、この先天性免疫において糖鎖シグナルが非常に重要な役割を持つことが明らかになりつつある。本研究では、糖鎖構造に基づき自己と異物を認識する生体防御機構の解明に向けて、哺乳動物の生体防御機構における内在性レクチンの役割の解析、無脊椎動物の生体防御におけるレクチンの役割の解析、及び異常糖鎖シグナルと糖鎖認識機構の相互作用の解析の3つの面より追求した。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 電顕によるマンナン結合蛋白質(MBP)の高次構造の解析、ブタ血清中の新規殺菌性レクチンの精製と遺伝子クローニング、癌と関連が予想される糖転移酵素や硫酸基転移酵素の精製や遺伝子クローニング、カブトガニのタキレクチン類の構造解析による機能の解明など、初期の計画に添って研究は進捗しているが、インパクトの高い展開にはつながっていないように思われる。MBPによる制癌作用の発見、MBPによる好中球からの活性酸素の放出、サイトカインの糖鎖認識による生理活性制御の発見等の新展開があり、研究の進展が期待される。共同研究グループは、個々に研究を進展させているが、全体としての方向性を出すことが望まれる。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 MBPによる制癌作用や好中球からの活性酸素発生等の発見による糖鎖シグナルの生理的意義の解明、MBPやタキレクチンの構造解析による糖鎖シグナルの認識様式の解明、新規糖鎖修飾酵素遺伝子のクローニング等の成果が、Proceedings of the National Academy of Sciences, USA、Cancer Research、Journal of Biological Chemistry等に掲載されており、科学的に評価できる成果が出ている。しかし、散発的という評価もあり、今後インパクトのある研究方向を志向するすることが望まれる。国内特許が2件出願されている。
4−3.総合的評価
 血清レクチンMBPの発見とその生体防御因子としての同定が、科学的・技術的インパクトが大きい独創的業績であったことは、MBPによる補体活性化経路が、免疫学の教科書であるImmunobiologyに記載されていることからも明らかである。MBPの高次構造、代謝的安定性、遺伝子プロモーターの解析、ブタ血清中の新規レクチン等、各々については評価できる成果が出ているが、相互の関連が不明で、研究の展開に一貫性を欠くように思われる。

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