研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
細胞容積調節の分子メカニズムとその破綻防御
2.研究代表者名
岡田 泰伸 (岡崎国立共同研究機構生理学研究所 教授)
3.研究概要
 すべての動物細胞の容積は固有の正常値に調節されており、たとえ異常浸透圧環境下において収縮・膨張が強いられたとしても、その後速やかに正常容積へと復帰する能力を持っている。浸透圧性膨張後の容積調節はRegulatory Volume Decrease(RVD)、浸透圧性収縮後の容積調節はRegulatory Volume Increase(RVI)と呼ばれる。本研究では、第一にこれら細胞容積調節の分子メカニズムの解明を目指す。特にRVDに関与するチャンネル、トランスポーター、レセプター分子を同定し、その活性化メカニズムを明らかにする。続いてこれを基礎に、病的条件下における容積調節メカニズムの破綻とそれによる細胞死の分子機構の解明を目指す。特に虚血条件下における容積調節破綻を防御し、細胞死から救済するための分子戦略を確立する道を拓く。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 初期の計画はやや問題があったが、虚血条件下における細胞容積調節異常と細胞壊死との関係解明に関して分子レベルでの解析が進み、目的に添って研究が進捗している。また、細胞容積調節異常とアポトーシスとの関連が追求され、興味ある知見が得られている。当初は類似の課題を持つ共同研究者を多く集めた構成であったが、途中から改善された。今後は、細胞容積調節の破綻と防御の研究を、生理・病理学的な面で追求することが計画されており、研究の進展が期待される。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 RVDの分子メカニズムの解明から、容積調節性K+チャンネル、これを制御するATPレセプターや容積感受性Cl-を制御するCaレセプターの同定などの新規な知見を得て、Journal of General Physiology、Journal of Physiology等に論文が掲載されている。また、アポトーシス初期の細胞収縮がRVD異常によってもたらされ、その後のアポトーシス反応に不可欠であることをProceedings of the National Academy of Sciences, USAに発表し、同誌のCommentary記事で紹介される等の成果を挙げている。国内2件、外国1件の特許出願がなされている。今後は、容積調節破綻による細胞壊死やアポトーシスの救済に向けた分子戦略での成果が期待されるが、そのための準備状況が明確でないように思われる。
4−3.総合的評価
 RVDの分子メカニズムに関して、幾つかの新規な知見を得て、国際的にも評価される成果をあげているように思われるが、科学的・技術的インパクトを与えるほどのものは現在のところない。細胞死(壊死、アポトーシス)、細胞の膨張・収縮を極めて単純に処理していることも危惧される。

戻る