研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
遺伝子の不活化・活性化を通した植物の生体制御
2.研究代表者名
大橋 祐子 (農業生物資源研究所 上席研究官)
3.研究概要
 導入遺伝子の不活化が、遺伝子組換え植物の中で頻繁に起ることが問題になっている。また、一度不活化された遺伝子が活性化されることもあるようだ。本研究では遺伝子の不活化・活性化を植物の自己防御の一つの形としてとらえ、イネなどを対象にその実態と機構をDNAのメチル化に注目して調べることにより、導入遺伝子や内在性の遺伝子の発現を人為的に制御する方法を開発することを目指している。具体的には、タバコ、シロイヌナズナ、イネなどを材料にして、タバコモザイクウイルス感染による同調的細胞死誘導系、DNAの低メチル化変異株等を用いた解析や、形質転換植物を用いた遺伝子の特性解明等から、病傷害抵抗性発現に至る情報伝達経路の一部を明らかにした他、導入遺伝子の不活化機構やゲノムDNAのメチル化の遺伝子発現に及ぼす影響などに関して新たな知見を得た。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 植物の病傷害に対する自己防御機構のメカニズムをシグナル伝達や遺伝子の不活化・活性化を通して解明しようとするもので、計画に添って研究が着実に進んでいると言える。材料として使用しているタバコ、全塩基配列が決定されたシロイヌナズナ、我国の国家プロジェクトとして精力的にゲノム解析が進められているイネを用いて、病傷害などの環境ストレスに対する応答が、シグナル物質伝達や遺伝子のレベルで明らかにしつつあり、また、導入遺伝子の発現に関しても新知見が得られていて、今後の進展が期待される。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 WIPK(傷害誘導タンパク質キナーゼ)の活性化による傷シグナル伝達の始動説、タバコより13種類のカルモジュリン遺伝子の単離、2種の新規タバコぺルオキシダーゼ遺伝子の単離、導入遺伝子の不活性化・再活性化やDNAメチル化による発現制御等の成果を、植物科学の分野ではインパクトの高いPlant Cell、Plant JournalやNucleic Acid Researchなどに投稿掲載されていて、評価できる。技術的インパクトとしては、昆虫の防御物質ザルコトキシンの遺伝子を植物に導入して、病害防除に利用できることを示したが、実用化には安全性のクリアーが必要である。国内、外国に1件の特許出願もしている。最終年度までには、現在の計画に添った成果は挙がるであろうが、予想されたものを越えた展開・発展を期待する。
4−3.総合的評価
 初期の計画に添った研究が進捗し、全体的に優れた成果を挙げてきていると言える。実用化も意識された研究が進んでいるのも評価できる。予定された研究は活発になされ成果を挙げているが、予想されたものを超えた大きな展開は得られていない。

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