研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
酸性オルガネラの形成とその機能の研究
2.研究代表者名
二井 將光 (大阪大学産業科学研究所 教授)
3.研究概要
 酸性オルガネラの形成機構、内部酸性化機構、及び細胞外酸性環境の形成機構を明らかにするべく研究を進めている。現在までに、1)酸性化に関与するプロトンポンプの作動にはサブユニットの回転が必須であること、2)V-ATPase のa、cサブユニットに細胞特異的なイソフォームがあること、3)V-ATPaseが線虫やマウスの発生に必須であること、4)酸性オルガネラの形成に特異的な因子が関与すること、5)オルガネラの内部酸性化に各種トランスポーターが関与すること、6)プロトンポンプの遺伝子転写に関与する因子が存在すること、などの成果が得られている。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 研究体制としては、「分子生物学・構造・機能」と「細胞生物学・生理・機能」を対象とする2つのグループに分け、密接な協力関係のもとに研究を進めている。
 分子生物学・構造・機能グループはプロトンポンプ(V-ATPase)の作動機構、V-ATPaseの膜内在性サブユニット・イソフォームについて、細胞生物学・生理・機能グループはオルガネラ内部酸性化に関与する因子、マイクロベシクルの内部酸性化機構とグルタミン酸濃縮機構、V-ATPaseの形成する酸性pHの発生段階における役割、V-ATPaseの膜内在性サブユニットのイソフォームの局在性と生理的役割、酸性オルガネラの形成因子、胃内腔の酸性化機構、などの研究を行なってきた。
 プロトンポンプのサブユニット複合体がATPase反応によって回転することを実体視させた結果は世界的に有名である。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
V-ATPaseの作動機構について、εγc10-14というサブユニット複合体がATPase反応に伴って回転することが明らかになった。
V-ATPaseの膜内在性のVo部分を形成するaサブユニットに、線虫及びマウスで4種のイソフォームが存在することを見出した。また、cサブユニットは線虫では3つの遺伝子が2つのイソフォームをコードしていたが、マウスでは遺伝子は1つであった。
オルガネラ内部酸性化に関与する因子として、酵母のV-ATPaseのプロトンポンプは膜電位によって制御されていることを明らかにし、膜電位とpH差を制御しているK+(Na+)/H+トランスポーターの存在を示した。また、pH調節に重要な役割を持つと考えられるNa+/H+交換輸送体に注目し、酵母の形質膜に存在するNa+/H+交換輸送体の遺伝子をクローン化し、細胞質ドメインの役割を明らかにした。さらに、ラットのNa+/H+交換輸送タンパク質の制御に関わる細胞質ドメインに結合する3種のタンパク質の新規遺伝子を単離した。
松果体のマイクロベシクルにV-ATPaseが存在し、グルタミン酸のベシクル内への濃縮にトランスポーターの駆動力を提供していることを明らかにした。
V-ATPaseの形成する酸性環境は線虫にとって必須であり、各イソフォームはそれぞれ特異的な時期で発現している。
Voのサブユニット・イソフォームの発現パターンを解析し、イソフォームの局在性を示した。
酸性オルガネラの形成因子に関して、酵母の液胞形成にVAM遺伝子群の変異株を見出した。
胃内腔の酸性化に関与する壁細胞のプロトンポンプ(P-ATPase)遺伝子の転写に必要な因子として、DNA結合タンパクであるGATA6を発見した。
マラリア原虫の細胞膜に存在するV-ATPaseが、赤血球の細胞質にプロトンを排出し、酸性化していることを見出した。
 今後、プロトンポンプの作動機構、オルガネラの内部酸性化機構、内部酸性オルガネラの細胞特異的な役割、酸性オルガネラの形成機構、酸性pHの生物学的意義などに関して普遍的な成果が得られる。
 Scienceなどの国際一流誌にも発表してわが国のため気を吐いており、学生を集め易い立場に居ることから、質の高い研究が続くと思われる。
4−3.総合的評価
 酸性オルガネラの形成機構、プロトンポンプの作用機構等について、この分野では世界をリードする研究であり、ポスドク等も集めて、今後の発展が期待される。

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