研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
核内因子による遺伝情報発現制御機構の解明
2.研究代表者名
田村 隆明 (千葉大学大学院自然科学研究科 教授)
3.研究概要
 真核生物の遺伝子発現は、核においては転写から核外輸送に至る様々な反応の総和により統御され、多くの因子がそこに関わる。これまでの研究により、核内反応がまとまりを持って存在する巨大複合体の中で、統一的、かつ連続的に起る可能性が示唆されている。また、転写と他の核内反応が因子を共有し、核内反応が核の特定部位で起ることも明かになっている。本研究では基本転写因子をベースに、それと相互作用する様々な因子の解析を通し、核内制御因子超複合体の存在を明らかにし、それが細胞機能や生命機構に果たす役割を解明する。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
・研究総括グループ
 基本転写機構の中でとりわけ中心的役割を果たす因子であるTBP(TATA結合蛋白質)に注目し、この因子と結合する因子や、それと複合体を形成する因子の分離解析、さらにTBP機能それ自身のポテンシャルを広げる様式という点に焦点をおいて、@TBPとプロテアソームATPaseを含む複合体との関係、AhnRNP-Fを含む複合体、BTIP120の同定とその機能解析、CTIP49の同定と機能解析、DTLPの同定と機能解析、を実施した。
・転写機構研究グループ
 基本転写装置の活性修飾機構について検討を行った。
・TFUH研究グループ
 RNAポリメラーゼUに転写を開始させる活性を有する基本転写因子TFUHの活性制御機構と核内での動態について研究を行った。
・TFUD研究グループ
 TFUDサブユニットの分子構成とその制御について研究を行った。
・転写因子研究グループ
 基本転写機構、特にTFUHの果たす役割の研究を行っている。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
・研究総括グループ
@ TBP結合因子群(TIP)を検索する新たなin vitroの系を確立し、複数のTIP蛋白質を見出した。蛋白質分解装置であるプロテアソームに含まれる複数のATPaseが、細胞内でTBPと複合体を形成することを明らかにした。
A スプライシング関連因子の一つであるhnRNP-FをTBPと複合体を形成する因子として同定した。
B TIP120に関してA、B2つのファミリー因子を同定し、これらが転写制御に関わることを示した。TIP120Aは全ての転写系の基本転写を活性化できる新規の基本転写活性化因子であること、また、TIP120Bは筋特異的な蛋白質であることを明らかにした。
C TIP49a、TIP49bを同定した。TIP49は転写制御における新たな機構の解明のみならず、転写と他の核内機能との関連を考える上でも重要な因子であることを示した。
D TBPに良く似た因子TLPを発見した。これは極めて興味深い因子で、今後の追究が望まれる。
 これらに関しては、国際誌への発表(1997〜2000年の間に38報)が行われている。
・転写機構研究グループ
 RNAポリメラーゼU(polU)のmRNA合成のスピードを抑制する新規転写制御因子であるDSIFとNELFを世界に先駆けて発見し、その制御機構を明らかにした。
・TFUH研究グループ
 TFUHによるpolUの活性化とTFUEによる制御の解析、TFUEの転写開始と伸長段階への以降段階での機能の解析、遺伝病の患者由来の欠損TFUHの解析について成果が得られた。
・TFUD研究グループ
 転写調節及びコアプロモーターの認識におけるTFUDサブユニットの機能について、新たな知見を得た。
・転写因子研究グループ
 TFUH及びpolUを中心にした転写制御機構の機能解析を行った。
 これまでの成果として、遺伝子発現から核内統御機構を見るという分子生物学研究上の指針に新たな視点が付け加えられたと考えられる。今後は本研究で得られた標的分子を基に、核/細胞ネットワークのラインを順々に解明し、研究を新しい機構の発見につなげることが望まれる。特にTLPの研究は世界的にも新しく、その発展が期待される。
4−3.総合的評価
 本研究は一時中断されているが、中断までになされた研究成果についての取りまとめ及び論文発表は続けられた。これらの研究成果に基づき上記のような評価がなされており、中断までの間に研究の順調な進捗が確認された。

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