研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
遺伝子情報制御分子としてのステロイドレセプター
2.研究代表者名
加藤 茂明 (東京大学分子細胞生物学研究所 教授)
3.研究概要
 核内ステロイドレセプターによる転写促進制御の分子メカニズム解明を目的とする。種々のレセプターの転写促進領域の同定や、生体内での生理機能の解析を試みた。同時に、レセプター標的遺伝子群の同定・性状解析を行なうとともに、既存あるいは新規核内ステロイドレセプター転写共役因子群の性状解析を行なった。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
核内ステロイドレセプター転写制御を解析する目的で、新規核内ステロイドレセプター転写共役因子群の同定を試みた。
ヒトエストロゲンレセプター(ERα)N末端AF-2領域と相互作用する転写共役因子複合体の構成因子の性状を明らかにする目的で、転写活性化領域に相互作用するコアクチベーターを乳癌組織由来cDNAライブラリーからスクリーニングした。
p68/p72とRNA型コアクチベーターSRAとの関連を探った。
AF-2コアクチベーター複合体構成因子群同定のため、大量のHeLa細胞を培養し、コアクチベーター複合体の生化学的な同定を目指している。転写共役因子や核内レセプターの生体内での生理機能を評価する目的で、ノックアウトマウスを作成し、解析した。
レチノイン酸レセプターのドミナント・ネガティブ変異体を、軟骨細胞に特異的に発現するマウスを解析した。
エストロゲン、エストロゲンレセプターの生理的役割、病理学的意義を明らかにすることを目的として、エストロゲンレセプターα及びβの下流に存在する応答因子群の性状を分子レベルで解明し、遺伝子改変動物を用いて生物の個体レベルでその機能を解析した。
 近年最も研究の盛んな分野で活躍しているため、大学院生、ポスドクが多く、極めて活発であり、予期しない新しい発展も見られる。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
新規核内ステロイドレセプター転写共役因子群の同定により、ヒトエストロゲンレセプターN末端AF-1領域の転写促進必須コア領域を同定し、このコア領域に結合する転写共役因子p68を精製、cDNAクローニングした。
p72はp68と最も相同性の高いRNAヘリケースであることが判明した。
ビタミンDレセプターノックアウトマウスは重篤なクル病を離乳期以降のみ発症することを見出し、このレセプターが骨代謝やカルシウム代謝に中心的役割を果たすことを証明した。さらに、タイプTクル病の原因遺伝子を突き止めた。
胎生期及び発育期の骨格の成熟と発達にレチノイン酸が必要不可欠であることを示し、また、脂肪細胞の分化に伴って発現誘導を受ける新規PPARγのコファクター(PGC2)を同定した。
新規エストロゲンレセプター標的遺伝子としてfrpAPを同定した。エストロゲン応答遺伝子NMDAレセプター2D、EBAG9の生物個体レベルでの機能についての知見が得られた。
エストロゲンレセプターのドミナントネガティブ体を導入したトランスジェニックラットを作成し、骨代謝においてエストロゲンに対する応答が低下していることを示した。
 今後、生体内での転写共役因子、核内レセプターの機能が明らかになるものと期待される。また、脂肪細胞の分化メカニズムとそれに関連付けた糖尿病の発症メカニズム、抗糖尿病薬の作用機序の解明を目指す。さらに、DNAチップの応用により、応答遺伝子を網羅的に同定できることが期待される。応答遺伝子については、診断や治療への応用も視野に入れることが可能になると期待される。
 世界の一流誌へもどんどん発表し、且つ国際会議にも招待講演に呼ばれている所からも、その活躍ぶりは明らかである。
4−3.総合的評価
 生命活動の最重要分子の一群、ステロイドレセプターに関し、その独創性、質、量共に世界的に評価されるグループを指導し、成果を挙げている。今後の活動も十分期待される。



※本プロジェクトの研究代表者であった加藤茂明氏については、同氏が主宰する研究室において論文の不正行為があったことが東京大学において認定されています。
認定された不正行為には、本プロジェクトの研究成果とされた論文の一部が含まれています。
詳細は、下記をご参照下さい。
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_261226_j.html
http://www.u-tokyo.ac.jp/content/400007786.pdf
http://www.jst.go.jp/osirase/20160325_oshirase-2.html


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