研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
哺乳類人工染色体の開発と個体の形質転換への利用
2.研究代表者名
岡崎 恒子 (藤田保健衛生大学総合医科学研究所 教授)
3.研究概要
 哺乳類染色体の維持・継承に必要なDNA配列を哺乳類細胞中での人工染色体形成能を指標にして同定・解析すること、並びに、このようにして形成された人工染色体を遺伝子導入ベクターとして細胞や個体の形成転換に利用することを目標として、研究を実施した。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 1)ヒト染色体セントロメア・キネトコア領域のクロマチン構造の解析、2)ヒト細胞中で人工染色体を構築し得る種々の前駆体YAC及びBACの構築と形成された人工染色体の性質の解析、3)人工染色体を遺伝子導入ベクターとして使用するための技術開発と問題点の検討、4)人工染色体をマウス胚へ導入するための基礎技術の検討、について研究を進めてきた。
 私学では学生を集めるのが大変と思われるが、比較的多くの人材を集めて研究を推進している。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
1)ヒト染色体セントロメア・キネトコア領域クロマチンの構造解析
 CENP-AがヒストンH3の代わりになり、H2A、H2B、H4と共にヌクレオソームを形成しうることを証明した。CENP-A、CENP-B、CENP-Cに対するモノクローン抗体を作成し、これらの抗体を用いてセントロメア特異的ヌクレオソームの単離を試みた。セントロメア・キネトコアについて、クロマチンレベルの基本構造を明確にした。CENP-Bの酸性アミノ酸ドメインとCENP-Cが直接相互作用をもつことが判明した。
2)ヒト細胞中で人工染色体を構成し得る種々の前駆体YAC及びBACの構築と人工染色体の性質の解析
ヒトテロメア配列とαT型アルフォイド配列を持つYACから、ヒト細胞中で維持されるHACの形成に成功した。活性あるセントロメアを形成するシス因子がアルフォイドDNAであること、さらに前駆体YAC中のアルフォイドのサイズが一定以上必要なことが明確になった。HACで得られた情報は今後新たにHACを構築する上で貴重な成果である。
巨大遺伝子領域を持つYACからHACを構築する試みとして、ヒト人工染色体(HAC)の構築を試みた。今後、既存のYACクローンを用いたHACへの一般的変換方法の確立を目指す。
アルフォイドDNAと複製起点と考えられている配列及び選択マーカーを含むBACを構築し、HT1080細胞に導入したところ、形質転換株が得られ、このうち5〜10%にHACが形成された。
3)人工染色体を遺伝子導入ベクターとして使用するための技術開発と問題点の検討
 前駆体YACのアーム部分にloxP部位を付加し、この前駆体YACからde novoにHACを形成した。HACを発現ベクターとして用いる上での問題点が明らかとなった。
4)人工染色体をマウス胚へ導入するための基礎技術の検討
 ヒト細胞で形成されたHACをマウス細胞へ移動する技術の確立を試みた。今後は受精卵前核に注入する技術や、ES細胞へ融合する技術を開発する。
 時間のかかる仕事なので、publicationがやゝ少ないのは仕方がないと思われる。もう少しで画期的な成果が見込めるのではなかろうか。
4−3.総合的評価
 非常に困難だが重要性もある人工染色体(プラスミド以外の)の創製に正面から取組んでおり、着実に進歩を続けている。国際的にも負けていない。今後の更なる発展と確立を期待したい。

戻る