研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
タンパク質の膜を越えたダイナミズムを支える細胞機能の解明タンパク質の膜を越えたダイナミズムを支える細胞機能の解明
2.研究代表者名
稲垣 冬彦 (北海道大学大学院薬学研究科 教授)
3.研究概要
 @シグナル伝達蛋白質の機能ドメインの構造決定、Aシグナル伝達蛋白質の制御機構の解明、Bドメイン工学に基づく人為的シグナル制御について研究を行った。対象としては、Grb2、N-WASP、好中球活性酸素発生系を取上げ、制御機構を明らかにするとともに、機能ドメインを素子とした機能蛋白質の設計を行った。また、これらの研究を行う上で必要となる技術開発についても併せて検討を行った。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
1)シグナル伝達系の解明とその制御
 機能ドメインの立体構造を明らかにするとともに制御機構を解明し、Grb2の柔軟性、SH3を介するシグナル制御、Grb2-SH2の標的認識の特異性と薬剤設計、Vav-nSH3の立体構造とGrb2-cSH3との相互認識、PBIドメインの構造とPCモチーフとの結合、好中球活性酸素発生系の制御機構の解明などについて研究を行った。
2)N-WASP、WAVEによるアクチン骨格系の制御
 細胞刺激によって引き起こされる、非常に速いアクチン骨格系の再編と細胞移動に関わっている、WASPファミリー蛋白質やWAVEファミリー蛋白質についての検討を行った。
3)BTGファミリー蛋白質の機能、構造研究
 新規な細胞増殖抑制蛋白質のBTGファミリー蛋白質の機能、構造について研究した。
4)好中球活性酸素発生系の制御機構の解明
 好中球活性酸素発生系の分子生物学的アプローチを行った。
 これまでは分子生物学的手法の導入、蛋白質科学の新しい方法論の導入、X線結晶構造解析の導入に注力したが、これらの手法が研究グループに定着しつつあり、質の高い研究を行える体制が整った。研究室の移動に伴い、若干の研究進展に遅れがあったことは否めない。グループも再建されつつあるので今後が楽しみである。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
1)シグナル伝達系の解明とその制御
Grb2は溶液中では柔軟な構造を取りうることを示した。ついで、C端、N端のSH3に結合するプロリンに富む標的配列を、長さの異なるリンカーで結び付けたペプチドを合成した。
SH3を介するシグナル制御のモデルとして、低親和性の結合配列を融合させたGrb2-cSH3を作製した。
Grb2-SH2の標的認識の特異性を見出し、Grb2-SH2の阻害剤の設計を行なった。
Vav-nSH3の立体構造を明らかにし、Grb2-cSH3との相互認識について知見を得た。
新規PB1ドメインを同定し、PCモチーフとの結合の特異性を明らかにした。
シグナル伝達蛋白質のドメインを中心とした立体構造解析、それらドメインを素子とするドメイン工学の展開に必要となる効率的な構造ドメインの同定、及び構造ドメインの組み継ぎによる新しい蛋白質の創製等のテクニカルな検討を行なった。
2)N-WASP、WAVEによるアクチン骨格系の制御
 N-WASPはCdc42によって活性化され糸状仮足を引き起こすことを、WAVEはRacによって活性化されて葉状仮足形成を引き起こすことを明らかにした。
3)BTGファミリー蛋白質の機能、構造研究
 BTGファミリーのホモロジー領域を分離し、得られたTobまたはBTG2の構造ドメイン領域をCaf1と共発現させたところ、複合体を形成していた。Tob-Caf1複合体は、3.5Å分解能の回折斑点を確認することができた。
4)好中球活性酸素発生系の制御機構の解明
 好中球活性酸素発生系の制御機構を解明した。
 今後、蛋白質の立体構造を基礎とし、シグナル伝達機能ドメインの制御機構の解明とドメインの工学的応用という目的に近付けるものと思われる。前記の事情に関らず、国際的評価の高い雑誌にも研究結果を発表している。
4−3.総合的評価
 現在最も脚光を浴びている細胞内シグナル伝達系を、蛋白質立体構造化学をベースに解析し、多くの成果を挙げて来た。本年度だけをみると、研究室の移動により、やゝproductivityが落ちているが、新研究室が立ち上がれば、更に強力な世界に発信するグループとなることが期待される。

戻る