研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
サイクル時間域光波制御と単一原子分子現象への応用
2.研究代表者名
山下 幹雄 (北海道大学大学院工学研究科 教授)
3.研究概要
 超広帯域・モノサイクル時間域での極短パルス光波の発生を実現し、この光技術と走査トンネル顕微鏡(STM)技術を融合して、時間・空間的に極限の超高分解能の観測技術を確立し、この技術を応用して原子・分子レベルの量子現象を時間変化として捉えることが、本研究チームの目標である。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 超広帯域・モノサイクル時間域での極短パルス光波の発生の光技術については、目標を達成すべく真正面から取り組んでいる。独自の方法を提案し、超広帯域化ということで十分に目標を超える成果を出した。短パルスモノサイクル化においても、世界トップレベルの極短光パルス発生に成功した。開発された光システムとSTMとの融合技術については、残された期間の最大の課題と成っている。達成できれば量子現象の空間的・時間的分解の極限の計測法として期待される。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 二つ以上の光パルスが非線形光学物質を通過したときに生起する誘起位相変調を利用した独自の方法で、超広帯域コヒーレント光として300〜1000 nm Δν=700 THzの発生に成功した。これは、理論的には1.5 fs・0.9サイクルに対応するものである。短パルスモノサイクル化においても、液晶ピクセル素子を用いた広帯域非線形チャープ補償法を開発し、4.1 fs・1.78サイクル光のパルス発生に成功した。ただし、極短光パルスの測定技術が極めて困難で、短パルス化を進めるにしたがって、それを如何に測定するかが問題となり、新たな計測技術への挑戦が必要になっている。超広帯域光パルスから、任意の複数波長の光パルス列を取り出す多重波整形においては、3波長THzパルス列ビームの同時発生に成功した。このように、光技術の研究は順調に進んでいるが、STMへの融合技術が、残された期間の最大の課題と成っている。現在までSTM探針の熱膨張効果を消去する方法を開発し、100 fsレベル光誘起変調に対応して、トンネル信号の0.01%の変調信号を測定するシステムを構築した。今後の課題は、数fsレベルの時間分解のために開発された光システムへの融合であるが、それが達成できれば量子現象の空間的・時間的分解の極限の計測に新たな領域を開拓することになる。
4−3.総合的評価
 超広帯域・超短パルス光波の発生とその周辺技術において、独自の技術により世界のトップレベルの結果を出していることは大いに評価されるが、自他ともに世界1位と認知されるように、短パルス化へのさらなる進展を期待する。STMとの融合技術は達成目標から考えると遅れ気味である。開発された光システムとの融合のところで多くの課題が発生することも予想される。それを成功させることが今後の最大課題である。研究チームの総力を結集して成功させて欲しい。

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