研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
自己組織化量子閉じ込め構造
2.研究代表者名
讃井 浩平 (上智大学理工学部 教授)
3.研究概要
 大きな束縛エネルギーを持ち、室温でも安定な励起子を有する物質として知られている有機・無機ペロブスカイト物質(RNH3)2MX4 (R:アルキル基、M:2価金属イオン、X:ハロゲンイオン)に着目し、この系の成分系を種々に変化させて合成することで、2次元、1次元さらには0次元の量子閉じ込め構造を自己組織的に構築し、次元性と光学・電子的物性との相関を解明するとともにデバイス応用の基礎研究も進める。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 研究目標に従って、各次元性を狙った多くの物質が合成された。その中で2次元構造については、成分系の工夫、1原子層レベルの積層制御などの進展によって、新奇な励起子機能が見出されている。また、いくつかの応用の芽も出てきている。1次元、0次元については、その物性を含めた可能性の検討は今後の課題。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 有機及び無機の複合の構成因子を多種に変化させた材料合成のなかで、2次元、1次元までの低次元材料合成に成功している。特に2次元では、LB法やSelf-Assembly法によって単分子層レベルを制御した薄膜作製ができるようになったこと、有機層にナフタレン、フォトクロミック発色団を導入して燐光発光を確認したこと、有機層に不飽和結合を導入し、放射線照射で固相重合することによって化学的安定性を増すとともに有機層に機能性を持たせる共役構造を持ち込むことができたこと、などが今後の発展を期待させる成果である。光物性の評価としては、3次の非線形感受率χ(3)が10-6 esuにもおよぶことと、その起源が励起子間相互作用によることを明らかにしたこと、ナフタレン導入の燐光発光について励起子発光の時間分解測定を行い、ナフタレン励起三重項状態へのエネルギー異動によることを解明した。また、機能デバイスとしては、強い燐光発光を利用したEL発光素子、ナノ秒レベルの高速応答の放射線検出器、室温動作が可能な光信号の超高速時間空間変換方法などの可能性を示したことは、本物質の励起子発光の特徴を活かしたものとして、今後に期待できる成果である。1次元、0次元の材料合成の進展は、残された研究期間でどのように絞りこむかが課題である。
4−3.総合的評価
 無限の材料選択が可能な有機系材料の合成において、有機・無機ペロブスカイト化合物に限定して、自己組織的に量子閉じ込め構造を追求することはユニークなアプローチである。その過程で、新機能発現を見据えた低次元性への材料合成の可能性と限界が明らかになってきているようである。残された期間は、有望な材料系と合成法に着目して、新奇機能の発現に重心を移し、この系の材料のあり方を明確にして欲しい。次元性の全てを網羅しようとして散漫にならないことが肝要と考える。機能性としては豊かな可能性が顕在化してきているので、材料的には化学的安定性の保持が極めて重要である。この面でのさらなる追求も期待する。

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