研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
強磁場における物質の挙動と新素材の創製
2.研究代表者名
本河 光博 (東北大学金属材料研究所 教授)
3.研究概要
 本研究では、強磁場中で磁場配向効果と磁気浮上効果を用い、物質合成や結晶成長、無容器の結晶成長や溶融を行なう。配向効果によって通常とは異なるものができる可能性が有り、また磁気浮上効果によって実験室で宇宙計画に有る様な浮揚実験ができる可能性を秘めている。本研究では、1)30 T(テスラ)級の強磁場中で重力に逆らって浮揚した状態、即ち新しい極限環境中、及び2)10〜15 Tながら口径の大きい磁場中での高温・高圧・長期間の極限環境中において、結晶成長や化学反応、物質合成等を行ない、新しい機能をもった磁性体、超伝導体などの素材を創製する。この他、強磁場研究の推進のため、新型大口径マグネットの開発を計画している。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 主な研究実施内容として、1)磁気浮上を利用したガラス、イオン性物質、有機物質等を容器と無接触で溶解・凝固させる実験、及び2)磁気配向を利用した良質の高温超伝導体、タンパク質単結晶、有機物薄膜、磁性薄膜等の作製と評価を行なっており、この他に新たな強力磁石として大口径無冷媒超伝導マグネットを開発中である。これら全てに於いて予定通り研究が進んでいる。
 球状ガラス、高温超伝導体、タンパク質結晶、ポリピロールの合成、作製など、すでに幾つかの成果を挙げている。磁気浮上では引き続き、Na2O-TeO2系のガラスを対象に溶融・凝固の実験を行なう。磁気配向では、超伝導体YBCOやBi-2212の特性向上を目指した実験を行なう他、磁場中でのYBCOの成膜を図る。また、磁場中で電気化学的機能性を持つポリピロール膜や磁性材料の窒化鉄薄膜を作製し、特性と磁場との関係を明らかにする。新型マグネットの開発では、360 mmの大口径を持ち8 T以上の磁場を発生できる無冷媒超伝導マグネットを平成13年6月頃に完成させる予定である。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 磁気浮上とレーザ加熱により、完全球形の大きくは数mmφ、小さくは500 nmφ程のガラス球を作成した。球形ガラス微粒子は放射線医学の用途が期待される。磁場中でのBi-2212の結晶成長が、臨界電流密度Jcの向上に非常に有効であることを明らかにした。Bi-2212材の品質向上は超伝導工学上重要であることから、この方面の注目を集めている。大口径無冷媒超伝導マグネットは注目に値する世界に先駆けての高性能マグネットである。
 今後とも強磁場中でYBCOやBi-2212の超伝導体素材、機能性高分子膜、磁性薄膜、タンパク質単結晶等を作製する研究が続けられ、これらの品質向上と磁場との関係が明らかにされる。
 大口径無冷媒超伝導マグネットと既存の水冷マグネットを組み合わせることにより、口径52 mmφ、磁場23〜24 Tを発生できる世界初の無冷媒ハイブリッドマグネットを形成することができる。この装置により磁気浮上力〜3000 T2/mを発生でき、磁気浮上による無容器溶解の研究を本格的に行えるようになる。無冷媒ハイブリッドマグネットは、組み合わせの両マグネットの改良により、将来は30 Tの発生が見込める。
4−3.総合的評価
 当研究チームは世界一流の強磁場発生技術ならびにその開発力を具え、それを基盤として強磁場中における諸物質の生成反応、素材の品質向上への磁場の応用等の研究を幅広く行なっている。既に種々の成果を挙げて来ており、これからも期待に添って成果を挙げて行くことと予想される。

戻る