研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
超過冷却状態の実現と新機能材料創製
2.研究代表者名
戸叶 一正 (物質・材料研究機構材料研究所 研究センター長)
3.研究概要
 本研究の目的は、過冷却状態を利用して非平衡状態で存在する新たな物質や材料を創製することにある。そのため、大きな過冷却を得るための実験技術の開発や、過冷却状態からの結晶成長機構の解明を行なうとともに、これらの知見を基に超伝導を始めとする各種機能材料の分野での新物質創製や大幅な機能特性の改善を目指す。過冷却状態創出のため、容量の大きい静電浮遊溶解炉及び国内初の本格的ドロップチューブの開発を進める。実験では主に超伝導体、半導体を対象とする。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 静電浮遊溶解炉としては、重量40〜50 mgのZrやNbを溶解できる世界最高性能の炉を作製した。高さ25 mの高真空ドロップチューブは現在建設中である。これに加えて、共同研究を行なう宇宙科学研究所には、ガスジェット音波浮遊炉、電磁力浮遊炉が有る。これら既存の装置を、超伝導体物質の銅酸化物や金属・合金、Si、Ge等を対象物質として過冷却の実験を進めている。また、ドロップチューブの完成を待って、微小重力中の急冷によるこれらの物質の過冷却状態、非平衡状態の創出を行う。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 本研究の成果としては、高温超伝導体Bi-2212のWhiskerを用いたジョセフソン接合素子の創製、及びBi-2212の帯状結晶の創製が挙げられる。Bi2-2xPb2xSr2CaCu2O8(x〜0.6)を過冷却状態にして得た非晶質相を加熱することにより、最長30 mmに及ぶWhisker結晶が成長した。Whisker2本を十字に接合させることにより、優れた特性を持つジョセフソン接合が比較的容易に作れることが分かった。これは注目に値し、実用に近いと思われる。急冷ではないが、Bi-2212を銀基板上で溶融・凝固させることによって帯状結晶が得られた。Bi-2212の針状結晶や帯状結晶は新型の素子材料として有望である。
 その他に、高温超伝導体123系の単相創製がある。123系(REBa2Cu3O7-δ, RE=Y, Nd et al.)は、通常の作製法では包晶反応が不可避で単相化や単結晶化ができないが、当チームではガスジェット音波浮遊炉を用い急冷して包晶反応を避け、123相の単相を得ることができた。更には、ガスジェット音波浮遊炉とピストン・アンビルを組み合わせて超急冷を行い、123相の組成を持つ非晶質状の物質を得た。
 導体材料では、Si及びGeをガスジェット音波炉を用いて溶融・急冷し、200 Kから300 K低い過冷却状態を得た。また、Si、Geの浮遊溶融・凝固により球状結晶を得ることができた。球状結晶は情報通信技術用の素子として将来利用される可能性が有る。
 Bi-2212 Whiskerのジョセフソン接合素子については、種々の特性測定を行ない、有用性を調べて行く。また、Bi-2212の帯状結晶、123系単相、Si及びGeの球状結晶についても、用途を探って行く。
4−3.総合的評価
 冷却を利用して新規物質を創製するという本研究課題の狙いは、試行的な性格が強いことから、成果の予測は難しい。今後挙げて来る成果を見守りたい。その中での成功例としては、高温超伝導体Bi-2212を過冷却して非晶質にし、それを熱処理して良質のWhiskerを得た。この針状結晶は、平成8年度採択課題「銅酸化物超伝導体単結晶を用いる超高速集積デバイス」の研究遂行においても大いに利用価値が有ることから、両チームが交流を深め協力し合う方向にある。同じ研究領域の中の研究協力体制として大いに好ましい。

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