研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
新しい量子自由度・軌道の動的構造の解明
2.研究代表者名
遠藤 康夫 (東北大学金属材料研究所 教授)
3.研究概要
 遷移金属化合物等の強相関電子物質群の相転移を支配する自由度「電子軌道」を探索する目的で、その動的構造の直接観察法を開発する。高輝度の放射光X線によって、軌道秩序の解析をPhoton Factoryで行なうとともに、伝導電子の非弾性散乱研究のための共鳴X線分光を目的とした装置の建設を行なう。同時に、高温超伝導を始めとする新奇な輸送現象の解析に不可欠なスピンの動的構造の研究を、中性子散乱実験等により系統的に進め、重要な知見を得ることに努める。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 強相関電子物質群の相転移を支配する電子軌道の秩序、動的構造の直接観察法の開発、理論的解釈を目的として、当初の計画に添って研究を進めている。直接観察のための大型精巧な放射光非弾性散乱装置を1年半費やして作製し、兵庫のSPring-8のビームラインに設置した。また、同物質群の電子励起・軌道揺らぎを観測する共鳴X線散乱装置を高エネルギー加速機構に設置した。これらを用いて、Mn化合物等を対象に電子軌道秩序に関する実験を行なって行く。高温超伝導体のスピン構造については、中性子回折実験で調べている。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 SPring-8ビームラインに設置の大型放射光非弾性散乱装置が完成したことは、大きな成果である。エネルギー分解能130 meVは世界最高である。また、電子励起・軌道揺らぎを観測する共鳴X線散乱法を確立したことも、大きな成果の一つである。
 中性子散乱による高温超伝導銅酸化物中のスピンストライプ構造観測に成功し、スピンストライプ形成と超伝導の関係を明らかにした。超巨大磁気抵抗を示すことで注目されるMn化合物(La2-2xSr1+2xMn2O7)の詳細な相図を作成すると共に、x=0.3〜0.6の範囲の良質単結晶作成に成功し、この物質の電子軌道秩序を発見した。また、電荷・スピン・軌道に依存する系のエネルギーレベルが接近して、幾つかの状態が競合関係に有り、それが系の特異な物性を生み出していることを指摘した。
 今後引き続き遷移金属化合物や高温超伝導銅酸化物等を対象に、放射光X線分光による軌道及び電子励起の観測、中性子分光によるスピン相関、スピン・軌道相互作用の観測を進める方針である。また、Bi系、Y系、LaSrCuZnO等の高温超伝導体について、中性子散乱実験によりスピン・ストライプ形成と高温超伝導発現機構との関係解明を目指すほか、低次元量子スピン系やスピンフラストレーション物質の探索と単結晶作製を行ない、その磁気励起構造を中性子散乱で調べて行く計画である。
4−3.総合的評価
 物質の電子軌道状態に関する精細な実験方法を確立した意義は大いに有る。これにより今後何か大きな研究、発見が為されることを期待したい。

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