研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
深度地下極限環境微生物の探索と利用
2.研究代表者名
今中 忠行 (京都大学大学院工学研究科 教授)
3.研究概要
 深度地下極限環境(高温、高圧無酸素、貧栄養)は古くから無菌状態であると信じられていたため、その生態系に関する研究は地方生態系と比べて大幅に遅れている。本研究では、この未開拓の深度地下極限環境から新規な微生物を分離し、それらが有するであろう特殊酵素、代謝系や環境適応戦略を解析して行くことを第一の目標に設定している。これにより地下微生物生態系の解明、生命進化過程の理解、遺伝子始原菌の確保、工業的利用や環境改善への貢献などが期待できる。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 深度地下の水や石油等から始原菌を採取することに努め、これまでに多数の新発見の菌の分離に成功している。またそれらから新規な酵素、有用酵素の発見、同定を行なっている。中でも超好熱始原菌の酵素やDNAは100 ℃近い高熱に対する安定性を有し、工業的利用上重要である。その熱的安定性や有用性の発現機構について分子レベルで解明を行ない、学問上、実用上の発展に資する。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 深度地下から分離した微生物はKOD1、VA1、HD-1等10種に及び、それらからの新規酵素の発見、有用酵素の同定を行なっている。HD-1株やKOD1株からBiotin-dependent Carboxylase、Ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase(Rubisco)、Lon Protease等の新規な酵素、KOD1株やVA1株からDNA Ligase、Hydrogenase、Chitinase、β-glycosidase、Esterase、Catalase等である。これらの多くは100 ℃近くを最適温度とする耐熱性の酵素である。
 当研究チームではこれまでと同様に、地下の種々の特異環境から新たな微生物の採取・分離、及びそれらからの新規な酵素、有用酵素の発見が見込まれる。また、既に発見した酵素及びこれから発見される有用酵素のバイオプロセス技術、環境保全・改善技術等への応用が期待される。超好熱始原菌KOD1株からは更に有用酵素の抽出される可能性があり、これから約半年間はKOD1株の解析に重点を置いてその全塩基配列の完全決定を行ない、分泌する有用酵素をリストアップする予定である。当研究チームでは、種々の新規な酵素についてその特異性、生理的役割の追究、ならびに分子構造レベルでの機構解明を進めている。また、生物進化系統樹の源流に位置すると云われる超好熱始原菌についての研究は、基礎生物学、進化学に大きな貢献をすることと期待される。
4−3.総合的評価
 当研究課題は戦略的基礎研究推進事業として最も成功している一つであろう。また、当研究チームは若手研究者の育成に優れているとの印象を受ける。欧米に比してバイオテクノロジーの遅れが我が国の問題として非常に懸念される現今、当研究チームの存在は朗報である。

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