研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
オホーツク海氷の実態と気候システムにおける役割の解明
2.研究代表者名
若土 正暁 (北海道大学低温科学研究所 教授)
3.研究概要
 オホーツク海は地球上で最も低緯度に位置する海氷域であり、地球温暖化の影響が顕著に現れる海域として、近年特に注目されている。また、その海氷域が北太平洋中層水の起源水域であり、二酸化炭素吸収域、高生物生産域など物質循環の見地からも重要な海域と見られている。しかしながら、オホーツク海はこれまで観測が非常に少なく、何故そのような低緯度で海氷が形成・発達するのかなどについての基本的な問題が未解明である。
 本研究は、ロシアの協力を得てオホーツク海の北西部大陸棚を含むほぼ全域における海洋観測を実施し、リモートセンシング、モデリングなどの手段を総合し、海氷の実態とその消長の機構、北太平洋中層水の起源水の生成機構、物質循環システム、古気候などを明らかにすることを目的とする。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 今まで本格的観測の行われていなかったオホーツク海の総合的観測を目指し、3年間に春、夏、秋と季節を変えて計3回のロシア観測船クロモフによる研究航海及び冬にロシア航空機による海氷域上の大気境界層観測が行われた。多項目にわたる測定やサンプリングがほぼ計画通り実施された。所要の観測資料が収集・整理され、それらの分析、解析、モデルづくりなどが開始されている。
 今後、目標に絞り込んだ研究に重点をおく必要がある。そのためにも、具体的戦略・実施計画をより明確にすることが望まれる。
 事前の準備研究の蓄積が生かされ、北海道大学低温科学研究所グループが主体となり、研究体制はよく組織されている。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 オホーツク海での初めての本格的観測であり、得られたデータに基づく個々の観測事実の意義は大きい。観測結果の科学的成果については、多くはこれからの解析に待たねばならないが、速報的なものとしてオホーツク海北西陸棚域の低温・高密度水の存在の確認、東サハリン海流の構造の把握、オホーツク海北西部で生成された冷水塊が南下した後ブッソル海峡を経て北太平洋中層水となる、という一連のプロセスを肯定する証拠が得られた。さらに、これらに伴なう顕著な季節変化や潮流特性も見出されている。また、物質循環、古気候などについての知見も得られた。
 海洋の観測は海流など物理的な面だけでなく海水の同位体を含む化学的観測も行われた。その結果はまだ明らかにされていないが、物理的・化学的両面を合わせてオホーツク海の構造と循環に関する全体像をまとめることが期待できそうである。海氷については、既存データの解析を引き続き進めるとともに、今回の観測で得られた海氷データ、氷海上の大気観測データをもとに大気・海洋・海氷相互作用を定量的に明らかにし、モデル化するという目的に向かってしっかりとした計画を立て今後の研究を進めてほしい。既にSSM/Iデータによる海氷タイプの分類と移動に関する幾つかの論文を発表している。この方法は未完成ではあるが、北西部に海氷生成域があることや海氷分布とその季節変化などこれまでの観測とよく対応しており、今後2年間でどこまで完成度が高まるか注目したい。
 海底コアの分析によるオホーツク海域の古環境復元については、12万年に相当するコアが得られているようだが、氷期・間氷期に相当する変動のほかに、今から6,000年前の気候最適期におけるオホーツク海の海氷の拡がりはどの程度であったかは今後の地球温暖化に関連して知りたいところであり、気候予測に役立つ古気候復元として重要なものと考えられる。
4−3.総合的評価
 オホーツク海は海洋科学的に重要でありながら、これまで少なくとも公開された観測資料が皆無に近い空白域であった。それだけに本研究の成果は国際的にも注目されるところであって、いわば日本の海洋科学のレベルが問われることになる。研究観測は順調に行われ、北西部の海氷生成海域の顕著な密度躍層の存在、東サハリン海流の確認など目標とした成果を一部達成している。海洋物質循環や古気候の研究者にとっては貴重な堆積物コアが採取されたのも朗報である。本研究は今まで少なくともロシア以外の研究者にとって空白域であったオホーツク海について多くの貴重なデータを取得した画期的なプロジェクトである。日・米・露の国際協同で行われた事、それによって今後の協力の基礎が出来たこともかけがえのない成果と言える。さらに、見落とされがちだが人身事故は勿論、観測上の事故も全くなく観測が終了した事は幸運とともに、観測計画が良く錬られていた事、参加した研究者の観測研究能力が高かったことの証左であろう。

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