研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
衛星観測による植物生産量推定手法の開発
2.研究代表者名
本多 嘉明 (千葉大学環境リモートセンシング研究センター 助教授)
3.研究概要
 地球上の植物生産量を定量的に把握することが、水・二酸化炭素など物質循環解明、地球環境保全、食料問題解決などのために不可欠であり、衛星計測による植物生産量の把握は緊急のテーマである。しかしながら、衛星データから生産量を推定する手法は確立されておらず、実証的手法を開発する必要がある。これには、従来の手法にはない衛星による植生被覆状態の一次的な知見と物理量としての生産量を関連づける新たなパラメータを開発する必要がある。
 本研究では草本植生をモデルとして、これに適合する現地観測サイトの定常及び集中運用を通して、衛星からの広域的かつ高精度の植物生産量推定手法を開発する。この手法により、砂漠・半砂漠・草原等の全陸地の約60%を把握することが出来る。さらに、この手法を基にして森林植生に適用可能な手法を開発することにより、陸域植生の大半をカバーすることが可能となる。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 モンゴル草原を観測サイトとして、草本植物生産量を衛星観測によって定量的に推定する手法の開発とそのための実証的検証法を目指して、さまざまな試み、すなわち、ロボットヘリ、ロボットアーム、3次元スキャンなど実用的で可搬性の高い装置の開発などを極めて精力的に行い有意義な結果が得られている。
 草原の生産量の実測法・推定法はユニークで優れている。現在開発中の植物の3次元構造の特性を示す指数としての二方向性反射構造特性指数(BSI)等による植生の分類法や植物生産量推定法は注目に値する。
 千葉大を中心とした国内他機関研究者を含むチームづくり、モンゴル国家環境局、気象局はじめ関係機関との事前からの協力関係の構築や地域住民との協力など、現地野外観測体制がすぐれていたことが成功の大きな原因である。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 モンゴルの実験サイトで直接測定した植物生産量、分光データ、植生指数(NDVI)から得られたバイオマスモデルを衛星観測データに適用し、周辺の草原のバイオマスを数%の誤差で推定した。衛星可視・近赤外・赤外データを用いた地上バイオマス推定法の基準となる植物生産量の効率的な測定法の開発については、予想以上の成果が得られたといってよいであろう。これらの方法で推定されたモンゴルの実験サイトの生産量と分光データの照合によって、衛星データから植物生産量を推定するための新たなアルゴリズムが構築されるであろう。
 今後の研究では、BSIなど新たなパラメーターを組み込んだモデルによる草原のバイオマスの推定精度をあげることが重要である。気候変動によって草原がどのように拡大或いは縮小するかを監視するネットワークを作る上でも、重要な役割を果すことが期待される。
 植物現存量の時間差分としての植物生産量、すなわち生産速度推定の高精度化の見通しは必ずしも明るくなく、また、草原は生食連鎖が大きく発達しており、とくに牧畜に関連すると生産速度の大部分は被食速度となって消えてしまうという現実などを考え、現存量に対象を絞ってはとの意見もある。未だ殆ど手をつけていない生態学的モデルに手を拡げるか否かとあわせて研究戦略の再検討を奨める。
4−3.総合的評価
 衛星観測スケールと地上検証スケール(現地サイト)の相異は、推定する物理量の精度に直接影響する。的確な推定手法の確立には、適切な検証サイトと新たな実証手法の開発(直接サンプリング手法の開発、飛翔体による広域高速検証手法の開発等)が必要である。その観点からモンゴル草原は実験サイトとして適切な選択であった。
 大筋において当初の研究目標に接近しており、草原のバイオマスの推定に関して多様な方法を開発したのは予想以上の成果である。また、本実験サイトが世界気候研究計画(WCRP)の地球規模強化観測期間(CEOP)の模範的なテストサイトの一つとして指定されたことは、国際的にも高い評価を得たことを意味する。また、モンゴルの実験サイトの研究成果がモンゴル国内での環境保全・自然災害対策上の要望に応えるものとなったことは、予想外の大きな収穫である。

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