研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
超伝導受信器を用いたオゾン等の大気微量分子の高度分布測定装置の開発
2.研究代表者名
福井 康雄 (名古屋大学大学院理学研究科 教授)
3.研究概要
 成層圏オゾン及びオゾン破壊反応に関与する大気微量分子ClO等の高度別時間変動を地上から長期間安定的に高精度で測定し、成層圏・中間圏におけるオゾン破壊に関連した反応系の解明を目指した測定法の開発を目的とする。そのために、低雑音超伝導受信器、広帯域音響光学型分光計等の開発を行い、可搬型超伝導大気測定装置を製作する。この装置を南米チリに設置して、観測データが皆無に近い南半球中緯度におけるオゾンやClOの高度分布を測定する。これらのデータをもとに、エアロゾルのデータや光化学モデルと連携して、中緯度オゾン層破壊の実態の解明を進める。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 超伝導受信器を用いた大気微量分子高度分布測定装置を製作し、チリのラスカンパナス観測所に設置した。同装置を用い、40 km高度のClOの検出に成功した。40 km高度のClOについては、数時間の積分で検出された例はこれまでになく、同測定装置が極めて高感度であることを示している。しかし、その放射スペクトルは極めて微弱であるため、精密な観測のためにはより一層のノイズレベル逓減のための努力が期待される。一方、オゾンホール起源の20 km以下のClOに関しては、観測地点上空への極渦の到来が未だないため検出できていないが、装置の感度としては検出に十分なレベルに到達していると考えられる。また、オゾンに関しては高度20 kmから60 kmの観測に成功している。現在の500 MHzの帯域を1 GHzの帯域に拡大し、下部成層圏のオゾン、ClOの精密測定を可能にしようとする計画は妥当である。ClOの精度については、分光計の光源をダイオードレーザーに変え、積分時間を長くすること等によって改善を図るとしているので、その結果を見極めたい。
 低雑音超伝導ミクサの開発に専門チームを擁するなど、装置の開発研究体制は妥当といえる。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 地上でのミリ波分光計による大気微量成分の観測という新しい方法で観測できることが実証できた。開発された装置が極めて低雑音のミリ波分光計であり、現在のところClO測定装置としての十分な性能を実証するに至ってはいないが、地上からのオゾン観測装置としては優れている。観測装置の小型・軽量化、観測の簡易化がなされれば、将来地上からのオゾン観測網の充実に役立つであろう。
 今後帯域1 GHzの分光計を用いることで、観測可能域を高度20 km以下の下部成層圏に拡大しようとしている。その後、オゾン・ClOの高度分布観測データと光化学モデルとをあわせて総合解析が行われるであろう。
4−3.総合的評価
 研究代表者は、開発した低雑音、高分解能、帯域500 MHzの音響光学型分光計は世界に先駆けて高度40 km近傍のClOの観測に成功したとしている。しかし、これまでに提示されたスペクトルを見ると、40 kmのClOに関してはS/N比が十分ではなく、現状ではデータの平均化を行って季節変動を得ることができるとしても、ClOの細かい昼夜変動を見るためにはS/N比をかなり高める必要がある。
 今後の目標として、観測高度を下部成層圏全体まで拡げるために帯域1 GHzの電波分光計の開発を進めており、オゾンホール型のオゾン層破壊が問題となっている高度20 km以下の詳細観測が可能になると期待される。ClOに関しては、オゾンホール起源の高濃度のClOが到来する場合の検出は現在のS/N比でも可能であると考えられるが、希釈の程度についての情報を得るためには更なるS/N比の改善が望まれる。航空機の場合とは異なり、地上からの観測では水蒸気その他の分子による影響のため、S/N比が極度に高い装置の開発が要求される。そのため、観測地点として高度2400 mにあり、乾燥していて晴天率の高いチリのラスカンパナス天文台が選ばれたが、今後の研究開発のなかでより一層S/N比を改善すべく、努力して欲しい。
 また、航空機や宇宙ステーションへの搭載用としても、小型・軽量化できれば開発の出発点に立ち得るものと思われる。今後2年間の研究成果がこれらの点にも生かされるならば、評価を受けられるであろう。

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