研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
黒潮変動予測実験
2.研究代表者名
今脇 資郎 (九州大学応用力学研究所 教授)
3.研究概要
 近年、人工衛星による海洋観測、現場での黒潮の流量測定、海洋データの同化、海洋数値モデルなどにおいて目覚しい進展があった。そこで、これらの分野で活躍している第一線の研究者を組織して、これまでの夢であった海洋変動の予測、特に日本南岸での黒潮の変動の予測に挑戦する。具体的にはまず、黒潮域及び北太平洋の亜熱帯循環域を中心にして海洋と気象に関する観測データを収集する。つぎに、その観測データを海洋データ同化モデルによって力学的に整合性のあるデータに編集し、格子点データセットや海面フラックスのデータセットを作成する。データ同化モデルと予測モデルを統合した実用予測モデルを開発し、これらの編集されたデータを初期・境界条件として、予測実験を試みる。本研究によって、本州南岸での黒潮の蛇行など、黒潮の変動機構に関する理解を深め、また、現在の観測システムで得られるデータを基にして、海洋の変動をどこまで予測できるかを明らかにする。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 日本南岸沖の黒潮の流路や流量について、それぞれ1ヵ月程度の短期変動から数年〜数十年の長期変動におよぶ、種々の時間スケールの海洋変動に関する観測研究、数値モデル実験、データ同化手法と実用予測モデルの開発など、個々の分担研究課題についての研究は着実に進んでいる。しかしながら、研究目標である「予測実験」に到達するには、研究の進行をさらに速める必要がある。
 共同研究者の一部に、気象庁・気象研究所のメンバーが加わっていることは、本研究成果を将来の海洋変動予測業務の実現に向けて円滑に移行するためにも、大変有効である。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 本研究は、観測による黒潮変動の実態把握を目指したASUKA(足摺岬沖黒潮協同観測)計画での成果を拡充発展させ、黒潮変動予測へと進む時宣を得た計画である。倒立音響測深器による観測とその資料解析手法の改良による四国沖での黒潮変動の高精度モニタリングシステムの確立、伊豆海嶺が黒潮流量の季節変化に与える影響についての新しい知見など、当初の目標に向けて一応期待された成果が得られている。
 これまでの進捗状況からみて、今後多機関の個別分担研究課題を全体計画のなかにそれぞれ明確に位置づけ、焦点を絞って計画を推進すれば、「予測実験」としての成果が期待できる。
4−3.総合的評価
 「黒潮変動予測実験」は、現在の海洋モニタリング、海洋力学、海洋循環数値モデリングなどの進歩に照らして時宣を得た研究課題である。全国の多くの研究機関の研究者による共同研究も、それ自体望ましいことである。しかし、今までのところ個別課題の成果はあるものの、全体のつながりはまだ不十分である。各分担研究はバラバラで、それぞれの全体目標に向けての役割や相互の関連を欠いているという厳しい意見もあったが、研究代表者は研究目標の達成に向けてリーダーシップを発揮しつつあるようにうかがえる。今後、目標に向けて個別課題の研究を戦略的に推進して行くことが肝要である。その際、「予測」が如何なる条件の下で如何なる理由で可能になるかという予測可能性の議論を、数値実験を含めしっかりやっておく必要があろう。

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