研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
脳型情報処理システムのための視覚情報処理プロセッサの開発
2.研究代表者名
小柳 光正 (東北大学大学院工学研究科 教授)
3.研究概要
 脳は現代のコンピュータとは基本的に原理の異なる優れた情報処理装置と見ることができる。すなわち、脳はニューロンと呼ぶ素子を用いて、並列のダイナミックスに基づく低電力の情報処理を実現している。本研究は、脳のこの秘密に学び、現代のデバイス技術の最先端をさらに発展させて、新しい情報処理用のデバイス及びシステムを開発する。このために、新たに開発するウェーハ張り合わせ技術を用いた3次元集積回路を使って、人工網膜チップを開発し、網膜から視覚野までの機能を統合した視覚情報処理プロセッサの構築を目指すものである。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究は、システム集積化技術を駆使して、脳型情報処理システム、とくに視覚情報処理プロセッサのハードウェアの実現を目指したものである。現在のところ、その鍵となる3次元集積化技術の開発に成功し、研究が順調に進んでいる。3次元集積化技術は世界で激しい競争が行われているが、本研究はその先頭を走るものといえる。この技術は、今後のコンピュータ技術やシステムオンチップの情報技術を革新する可能性を秘めたもので、大いに期待が持てる。
 研究代表者の目指すところは、この技術を中核に、網膜から脳の初期視覚野にいたる情報処理機能を実現する人工網膜チップを開発することにある。そのための生理学的知見との照合も少しづつ進展している。また、このチップを用いた視覚情報処理システムを構成して、その性能を明らかにする試みにも一歩踏み出している。しかし、限られた期間でこのすべてを全面的に実現することは困難であり、焦点を絞ったプロトタイプで、その技術的有効性を明瞭に示すことを期待する。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 3次元集積化技術を開発し、これを低電力回路で実現する道を世界に先駆けて拓いた成果は高く評価できる。この技術を基に、人間の網膜を模した人工網膜チップの設計を行い、その動作をコンピュータシミュレーションで確認している。さらに、3次元集積化技術を用いたテストチップを試作し、基本動作を確認したのは大きな成果である。
 また、網膜と視覚野の機能を取り入れたニューロヴィジョンシステムの設計とその動作の評価に取り組み、2次元のアナログ・ディジタル集積回路テストチップを試作できたことも大きな成功といえる。一方、脳の情報処理メカニズムの解明や視覚情報処理モデルの作成は、方向としては評価できるが、いまだにこれからの課題である。
 今後、デバイス技術として世界の第一線を維持しつつ研究は順調に進むと思えるが、本研究のまとめとしては焦点を絞り、両眼視モデルやロボットの視覚運動連携など、具体的なプロトタイプモデルを完成して成果を示すことが重要である。
4−3.総合的評価
 脳型情報処理技術を開発するにあたって、3次元集積化はその基盤を支える重要な技術になることが想定されている。これは、さらにこれからの情報化社会におけるマルチメディア情報技術の基盤ともなる。本研究が正面からこれに挑み、世界に先駆ける成果を得ていることは高く評価できる。
 脳システムとの結びつきは必ずしも自明ではないが、そこからヒントを得ていることは明らかである。もっとも、この方式は網膜・視覚野の情報処理初期過程には向いていても、記憶・思考など、本格的な脳過程のチップの設計には、さらに異なる様式が必要になろう。しかし3次元集積化技術は、これにも必要な基盤を提供すると思われる。
 本研究の技術的有効性を示すためには、今後の限られた時間の中では焦点を絞り、具体的な情報処理モデルで新技術の成功を明瞭に示す、パイロットモデルの完成に努力して欲しい。

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