研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
神経細胞における増殖制御機構の解明
2.研究代表者名
中山 敬一 (九州大学生体防御医学研究所 教授)
3.研究概要
 本研究の目的は、神経細胞が何故増殖しないのかを分子レベルで解明しようとするものである。当初その原因の一つは、細胞周期を止める2つの類似した分子p27、p57が神経系に強く発現しているためと考えた。そこで、p27、p57の発現機構を解明し、またダブルノックアウトマウスを作成することによって、神経細胞の細胞周期停止メカニズムを明らかにしようと試みた。ダブルノックアウトマウスの作成は早期に達成したが、神経再生につながる展望は開けなかった。直ちに研究の軌道修正が行われ、停止メカニズムよりは進行メカニズムを中心とする、細胞周期の基本に立ち返った研究を開始した。細胞周期制御に重要な役割を果たす分子群の発現調節機構、特にユビキチン依存性蛋白分解機構に関して、その責任因子を単離同定に成功し、さらに遺伝子改変動物を作製してその生理的機能を明らかにしてきた。さらに、神経細胞で特異的に働くサイクリン様分子をクローニングし、現在その機能解析を進めている。また、ポリグルタミン病における異常蓄積蛋白のユビキチン化機構を明らかにしつつあり、その治療法を開発つつある。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究の主テーマは、p27とp57のダブルノックアウトにより神経細胞の増殖性を獲得し、この細胞を用い移植、再生に応用しようとする独創的な狙いだったが、ダブルノックアウトによっても神経細胞は増殖せず、その意味で初期の目的は達成できなかったと言わざるを得ない。初期計画は予測通りには進まなかったが、細胞周期の促進因子であるサイクリンEの発現制御機構の解析は、細胞生物学的に幾つかの発見をもたらした。また、その周期性がユビキチンリガーゼの発現による事をノックアウトマウスで証明した成果は評価出来る。さらに、脳に発現する新しいサイクリン分子BK5 を発見同定し、細胞周期の新しい概念形成に寄与した。このチームは、細胞生物学的実験や、ノックアウトマウスを作成し発生工学的に個体レベルで解析出来る研究能力において優れており、そのレベルは国内外の研究組織と較べても非常に高いことが実証された。
 神経細胞の増殖制御機構の基礎的研究は重要であり、更に研究材料を変え、例えば幹細胞からの神経細胞の発生段階やテラトーマ由来の培養細胞を使った研究も期待出来る。神経細胞の生存維持のため、ユビキチン化機構を中心とする基礎的研究を、各種の神経変性疾患について検討する事も重要であろう。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 初期計画は予測通りには進まなかったが、細胞周期の促進因子であるサイクリンEの発現制御機構の解析は、細胞生物学的に幾つかの発見をもたらした。また、その周期性がユビキチンリガーゼの発現による事をノックアウトマウスで証明した成果は評価出来る。さらに、脳に発現する新しいサイクリン分子BK5を発見同定し、細胞周期の新しい概念形成に寄与した。MJD1のユビキチン化の研究は、広く神経変性疾患の分子機構の解明につながる可能性がある。
 神経細胞周期制御機構やユビキチン/プロテアソーム系と神経変性疾患関連の分野は競争が激しく、短期間で意義のある成果を得ることは容易ではないが、研究者は実行能力が極めて高いので、1)細胞周期制御におけるユビキチンリガーゼの問題、2)ユビキチン依存性蛋白分解の分子機構の解明、は神経変性疾患の成因や治療法開発につながるかもしれない。
4−3.総合的評価
 当初の本研究テーマである神経細胞に増殖性を持たせる為に、増殖制御遺伝子 P27、p57 のダブルノックアウトマウスの実験は残念ながら予測通りに行かなかった。しかし、細胞周期制御機構について多くの成果が得られており、今後もこの方面の研究を集中的に推進すべきものと考える。ユビキチン化機構の解明は、ポリグルタミン病に限らず多くの神経変性疾患の病態、治療法の開発に役立ち、「脳を守る」研究として重要であろう。

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