研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
Caチャネル遺伝子の変異と神経疾患
2.研究代表者名
田邊 勉(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授)
3.研究概要
 本研究の目的は、SCA6の病態とCaチャネル遺伝子変異との関係を明らかにするとともに、変異α1Aチャネル及び共存する他のタイプのCaチャネルの発現調節、制御機構の活用により、神経細胞の変性脱落のメカニズムを解明することにある。研究代表者等は、SCA6患者プルキンエ細胞においてα1Aチャネルの凝集体を見い出した。また、SCA6変異を有するα1Aチャネルは機能低下していることを明らかにした。さらに、神経特異的チャネルである α1A、α1B及びα1Eチャネルの機能的特異性と協同性の一端を明らかにした。これらの研究を通じて、未解明なSCA6ひいては神経変性疾患の治療法を開発することを目指している。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 SCA6の病態において、α1Aチャネル遺伝子のCAG延長が何故神経細胞変性脱落死を引き起こすのかを解明するため、免疫組織化学的解析、変異マウスの機能解析、in vitro における電気生理学的解析、ノックインマウス、ノックアウトマウスの作製と多彩な手法を駆使して丹念にアプローチした。その結果、SCA6病態に結びつく多くの成果を挙げている。
 特に、1)SCA6 患者の剖検脳のプルキンエ細胞質内にポリグルタミンの凝集体があり、且つユビキチン化されていないこと、2)生物学的にポリグルタミンの長さが長くなるに従ってCaチャネルが不活性化し易くなり、且つこのチャネルを通るCa 流入量が減少する、3)α1AチャネルのcDNAをクローニングした、等が治療法の開発にとって重要な意義を有する。また、付随した研究において、痛覚伝達機構における神経特異的Caチャネルの機能の役割を明らかにしているが、慢性疼痛の治療薬につながることも期待できる。世界的に競争の激しい分野であるが、量的にも質的にも遜色のない成果を上げている。
 同一研究機関内の薬理学教室と神経内科教室との連携がうまくかみ合っており、研究体制は良好である。今後は、Caチャネル遺伝子ノックアウトマウス及びSCA6病態モデルマウスの作製、小脳機能における個々の電位依存性Caチャネルの特異性と協同性の解析を通じて、SCA6の遺伝子治療の開発を目指して欲しい。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 α1Aチャネルという単一Caチャネル遺伝子の変異により、SCA6やその他多彩な神経変性疾患が発症することを明らかにした成果は、大きなインパクトになるであろう。臨床応用に進むためには、更に動物実験で確認する必要がある。α1B、α1Eチャネルについては、すでにノックアウトマウスを作製して機能解析を行っている段階であるが、α1Aチャネルについては、ES細胞を作製した段階でこれからの課題である。特に、P型α1Aチャネルノックアウト及びノックインマウスの作製と表現型の解析は必須である。SCA6モデルマウスの作製については既に着手しているが、早期に完成することが望まれる。
4−3.総合的評価
 SCA6の病態に迫るメカニズムの研究は順調に進んでいるが、細胞質内ポリグルタミン凝集体の出現、in vitroでのCa流入の低下など、この両者の因果関係は今後の課題である。モデルマウスや変異マウスの作製には、飼育スペースやマンパワーの問題があり困難が予想されるが、方法論は出来上がっているので、研究チームの努力に期待したい。残された期間を有効に使って、神経変性疾患の治療に結びつく方法論を確立することを期待する。

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