研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
精神分裂病における神経伝達の異常
2.研究代表者名
須原 哲也 (放射線医学総合研究所 特別上席研究員)
3.研究概要
 本研究は、精神分裂病の大脳皮質におけるドーパミン神経伝達及び関連分子の異常をポジトロンCTを用いて測定し、臨床症状、薬物反応性など複数の指標との関連を明らかにする。さらに、生体における大脳皮質ドーパミン機能及びその調節機構を研究することにより、精神分裂病の新しい治療原理の構築を目指している。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究は1)精神分裂病の病態と治療に関する研究、2)新規リガンドの開発・評価研究、の2つに分けられる。臨床研究は、これまでに大脳皮質領域のドーパミンD2受容体を [11C]FLB 457を用いて定量評価し、精神分裂病において前部帯状回のD2受容体結合が正常対照群に比較して低く、精神分裂病の陽性症状と負の相関があることを明らかにした。一方リガンド開発研究においては、NMDA受容体の標識リガンドとしてacetyl[11C]L-703,717を開発し、in vivoにおける評価では小脳にのみ特異結合することを見出した。これらの知見は国際的にも斬新な成果である。欧米に比してかなり遅れているリガンドの開発は、九州大学との共同研究によってacetyl[11C]L-703,717を始めいくつかの候補化合物を得ており、よく貢献している。動物用PETの導入や実験動物搬入のための調整に手間取った感は拭えないが、その後は体制を立て直して成果を挙げつつある。PETを用いた研究では、合成・薬理・解析の3グループ間の密接な協力体制が必要であるが、日本では外国と比べてチームの立ち上げが困難であった。本研究はCRESTの支援があって初めて可能になったものであり、その意義は大きい。また、東京医科歯科大学を初め臨床家との連携が円滑になされており、さらに共同研究体制を広げる努力がなされている。更に効果的なリガンドを開発し、臨床応用に進むことが期待される。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 精神分裂病における大脳皮質でのD2受容体の研究やNMDA受容体の研究では、評価すべき成果を挙げている。既に12編の国際誌への発表も行っており、この点も評価出来る。NMDA受容体リガンドacetyl[11C]L-703,717の小脳特異的標識が確立されれば、小脳変性疾患への応用も期待できる。
4−3.総合的評価
 分裂病が抗ドーパミン薬でその陽性症状が改善される事は臨床的に解っていたが、D2受容体について線条体以外で検索した意義は大きい。分裂病において、D1受容体に次いで D2 受容体が大脳皮質、特に前部帯状回で低下し、且つ陽性症状と負の相関がありそうであると言う指摘は、大きい意味を持つ。今後症例を増やして確実な結論に達してほしい。リガンドの開発に関しては、我国では薬学、特に製薬会社との協力がなかなか得にくい分野であるが、マウスでグリシンサイトのNMDA受容体リガンドが小脳特異的サブユニットと結合するという研究は意義深い。今後更にデータをより確実的なものとした上で、各種の小脳変性症に応用出来る事を期待したい。

戻る