研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
遅発性神経細胞死の分子機構
2.研究代表者名
桐野 高明 (東京大学大学院医学系研究科 教授)
3.研究概要
 一過性脳虚血後、海馬の遅発性神経細胞死はきわめて緩徐に進行し、受動的破壊による細胞死とは異なる。その上流では神経細胞特有の機構による細胞死の決定機構が働き、その間は神経細胞死は可逆性で治療可能であり、最終的にアポトーシス共通の経路に達すると不可逆的に進行すると考えられる。アポトーシスの上流での神経細胞特有の分子機構を解明し、治療可能域を探ることが本研究のねらいである。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 研究代表者は、一過性脳虚血後特に海馬CA1細胞において、遅発性の神経細胞死が見られることを発見している。そのメカニズムを解明するため、当初はカルシニューリンに着目した仮説を立て、それを立証する研究に着手した。その結果、カルシニューリンがp53を介して関与することが立証された。それ以外にも、ユビキチン/プロテアソームの機能低下、及びカスパーゼ3が関与していることを明らかにした。また、遅発性神経細胞死のモデル動物をマウスで作製することに初めて成功した。これらの成果は独創的であり、世界をリードするものである。
 研究体制は、分子解析グループが2グループ、治療実験グループが3グループあり、それぞれ独自の研究を展開している。しかし、後者の3グループは現段階では必ずしも研究の主題との関連が明らかでない部分もあり、もっとメカニズムの解明に主力をおくべきであろう。今後は、in vitro系の解析で見いだしたカルシニューリン、p53、プロテアソーム等分子群の動きがin vivoでどのように動いているのか、チームで開発したモデル動物で実証し、治療方法の開発を目指して欲しい。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 遅発性神経細胞死が防止出来れば、脳梗塞等の障害が著しく軽減出来、インパクトは大きい。その治療法を開発するための手段として、マウスにおける遅発性神経細胞死モデルを開発した意義は大きい。臨床を主体としたチームであり、治療方法の開発方針が明確になれば、大いに力を発揮できるものと期待される。そのためにも、遅発性神経細胞死の分子機構の解明が強く期待される。
4−3.総合的評価
 本研究は、研究代表者が自ら発見した現象のメカニズムを解明しようとするものであり、その成果は着実に上がっている。また、モデルマウスの作製に成功したことは高く評価される。この分野では日本におけるリーダー的な立場にあるので、今後ともリーダーシップを発揮して治療方法の開発につなげることが強く期待される。

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