研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
多種類化合物群の効率的合成を指向した分子レベルでの反応開発
2.研究代表者
小林 修(東京大学大学院薬学系研究科 教授)
3.研究概要
 本研究では、方法論としての多種類化合物群合成法(ライブラリー)の開発に重点を置いた有機合成反応の開発を目的とする。特に、反応溶媒として水に着目し地球環境に優しいプロセスの開発、個々の有機反応の効率向上を追及する。加えて、ここで開発したライブラリーを用いて生理活性物質の探索、開発を行い、活性発現機構を解明していく。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 有機合成化学においてルイス酸に代表される触媒は極めて重要である。しかしこれまで開発されてきた種々の触媒は水に不安定で、これを解決する手法が待たれていた。小林チームは独自の発想ですでに、「水中で安定なルイス酸」を考案していたが、期中、代表者の転籍(東理大→東大薬)があったにもかかわらず、それをより汎用的に利用する方法まで拡張してきた。さらに、それらを用いての多種類化合物合成ライブラリーの構築を行なうなど、進捗著しいものがある。今後これらのアイディアをルイス酸以外の系に応用する、または坑マラリア剤のような生理活性物質の開発に展開する等有機合成課題があるが、その達成確度は高い。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 現在までに大きく進展したものとして、既に見出していた「水の中でも安定かつ高活性なルイス酸」をベースに、ルイス酸−界面活性剤一体型触媒の開発や、有機溶媒を全く用いない水中での反応の実現があげられる。さらに、水系有機合成反応に対して活性をもつルイス酸の共通の性質として加水分解定数と水分子交換定数に注目し、従来あまり利用されていなかったメタル等の活用を可能とした。
 また例えば、キラルジルコニウム二核錯体を用いての含窒素化合物の効率的合成(不斉ストレッカー反応等、立体選択的合成)についても高選択性を実現した。さらに、多種類化合物群(ライブラリー)構築のための新しい高分子固定化試薬の開発を行なっている。この中で回収、再使用可能な「マイクロカプセル化」触媒も開発した。これらの手法を用いて、坑マラリア剤の開発やスフィンゴ脂質代謝阻害剤の全合成を進めている。
 これらはどれをとっても世界をリードする業績である。多方面から引合いも多くあり、短期間でインパクトの大きな成果を出した。今後さらに利便性の高い有機合成法への展開が期待される。
4−3.総合的評価
 現在までにすでに大きな成果を出しているが、今後ライブラリーの活用による生理活性物質の探索・開発や水中での触媒的不斉合成反応の開発等、より困難なテーマに挑戦して新風を巻き起こしてほしい。

  戻る