研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
人間の高次精神過程に関わるコラム構造・配列
2.研究代表者
田中 啓治 (理研 脳科学総合研究センター グループデレクター)
3.研究の概要
4テスラfMRI装置を用いてコラムレベルでのイメージングを人間の脳から行うことを試みた。コイル、パルスシーケンスの改良などを行い、第一次視覚野の眼優位性コラムのイメージングに成功した。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 S/N ratio を高くするなど、fMRI の技術上の問題点の困難さがみられるが、その克服に努力していることがよくわかる。技術的問題を克服して、眼優位性コラム(ocular dominance column )の可視化に一応成功した。ヒトの眼優位性コラムのイメージングで漸く1.1mm 幅のコラムが見えてきた。併しもっと明瞭にすべく改善が望まれる。勾配磁場コイル、送受信コイルの開発・改良、ゴースト除去などイメージング改善をめざして努力が行われている。4テスラの f MRI という最新の装置を使って第1次視覚野のコラム構造を見事に映像化した技術的には優れた研究である。しかし当初の目的である高次精神過程にかかわるコラム構造の発見にはまだほど遠い。
 研究の主力が fMRI の分解能向上に向けられている。方針変更はなく4テスラー fMRI を用いて、眼優位性コラムを人間の視覚領野で明らかにする研究方向が進展しているが、これが達成されたとき、代表者が発見した側頭連合野のカラム構造の解明という本来の目的に移るものと思われる。
 コイルの改良、独自なパルスシークエンスの開発などにより fMRI の空間分解能を上げ、第一次視覚野での眼優位性コラムのイメージングに成功し、超高磁場の使用に伴う技術的問題の克服は十分評価できる。しかしながら、技術的開発力では、現状のままではその内、米国やカナダのグループに追い越される可能性が大であろう。光計測(赤外線分析)などを併用して、機能を解明する方向に、レベルの高い重要な研究成果を期待する。
 fMRI の空間分解能向上のために専門家を集めて着実に改善を進めている。段階的な技術的進歩に伴ってその都度生理学的発見、論文発表が行われた方が、研究体制を維持しやすいのではないか。研究費の大部分が fMRI 改良および ESR に使用されており、これらの装置には高額な研究費が必要である。
 fMRI の技術開発に多大の努力をしている点が評価されるが、技術への貢献と共に、脳科学への応用として脳機能解明にもさらに努力されたい。本研究プロジェクトでは fMRI の機能向上に集中するのも一つの選択と認めてよいのではないか、また、 ESR の本格的な改良が進めば情報量が増すであろう 。技術的改良が中心で、ヒトの高次視覚機能(過程)の解明という研究目標に向けての取り組み(努力)にやや欠ける。目的を絞り過ぎて all or nothing になるのが一寸心配である。以上の素晴らしい技術的成果にもかかわらず予想外の新しい発見は得られていない。そして当初の目標であった下側頭皮質の図形コラムの研究につなげる研究の進め方がまだはっきりしない。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 fMRI 空間分解能が 1mm に近づき、ヒトで ocular dominance column の可視化に一応成功したこと。publication が現在のところ量・質ともにやや物足りない。
 fMRI の技術と脳科学(生理、機能)を平行して進めている点で本研究は独創性が高い。極めて困難ではあるが、本研究でなければ解決できない課題に正面から取り組んでいると思う。きれいなコラムのイメージングが得られればインパクトは大きい。
 今回映像化した眼優位コラムは解剖学的に既に証明済みの構造であるからいわば装置の性能を試すための予備実験である。fMRI の空間分解能が目標の 0.5mm に近づき、大脳皮質のコラム機能解析に利用されることを期待できる。本当に f-MRI でしか見えない機能的コラムを見つけるには輪郭の方位コラムや運動の方向性コラムのように動物で 2DG や光計測によって証明されたコラムを調べる必要がある。
4−3. 総合的評価
 fMRI の実用的機能向上のための改良、工夫を高く評価し、高分解能 fMRI を利用した高次脳機能研究が展開されることを期待している 。ヒトの下側頭皮質のニューロンレベルの研究に従事していた代表者が、ヒトでの fMRI による視覚機能の研究という未体験の分野に挑戦し、技術的な問題を克服して短期間で4テスラ fMRI を使用可能にしたことは十分評価できる。一時視覚野コラムに比して、アプローチが難しい側頭葉の解析が、高次精神過程の研究には不可欠と思われるがこの課題への挑戦に研究の将来を期待したい。

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