研究課題別中間評価結果

 
1.研究課題名
炎症反応分子機構のIL8,接着因子を中心とした解析
2.研究代表者名
松島 綱治 (東京大学大学院医学系研究科 教授)
3.研究概要
 炎症反応は生体防御の根幹をなし、白血球が中心的役割をなす。近年白血球浸潤機構の解析において大きな二つの進歩があった。一つは白血球と血管内皮細胞の接着を介在する分子が同定されたこと、もう一つは本研究代表者らが発見したIL8をはじめとする炎症時の白血球の活性化と遊走を制御するサイトカイン、ケモカインファミリーが同定されたことである。本研究においては、(1)IL8をはじめとしたケモカインの様々な炎症・免疫疾患モデルでの病態生理作用の確立とそれに基づく抗炎症・免疫抑制剤開発のための新たな分子標的の提供のための基礎実験。(2)ケモカイン受容体シグナル伝達機構の解析。(3)白血球細胞接着因子の生物学的意義の確立と接着因子を介した細胞内シグナルの解析。(4)エンドとキシンショックの分子機序の解析。(5)マクロファージ・樹状細胞の起源、分化、活性化分子機序の解析と新規炎症関連遺伝子のクローニングならびにそれらの生物活性の確立を柱として研究を実施している。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 細菌性劇症肝炎、気管支喘息、急性GVHD等のモデル系における特異的ケモカインの産生細胞や標的細胞(Th1/Th2)を同定し、ケモカイン抗体を用いてケモカインの役割を証明するなどの進展があった。また、SAGEによる発現遺伝子の解析、イントラカインによる受容体欠損細胞作製等は、新しい展開として期待できる。ただし、ケモカインについての広範な研究でコアになるものが無いような感じもするので、フォーカスを絞った研究へシフトすることも必要であろう。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 細胞内シグナル抜きに、ケモカインとその受容体の免疫応答、炎症誘起、個体発生における不可欠の役割を証明し、ケモカイン−ケモカイン受容体についての分子経路と疾病との関連について高度の成果を挙げた。急性・慢性炎症時のみならず免疫反応時のサブセット特異的リンパ球浸潤、Th1/Th2優位な免疫反応をケモカイン・ケモカイン受容体により説明できるようにする等の成果を、Blood、Journal of Clinical Investigation、Journal of Immunology、Laboratory Investigation等に多数発表している。また、特許も国内4件、外国2件出願していて成果を挙げている。イントラカインを使った疾患モデルの解析やSAGEによる発現遺伝子の解析など今後の成果が期待できる。
4−3.総合的評価
 細胞内シグナルが多くの研究者の主たる興味を占める中で、ケモカインとその受容体に特化した(細胞外にやや限定した)プロポーザルで研究が進められ、成果を挙げている点高く評価される。リンパ球やDCに作用するケモカインの研究は少し後追いだが、重要な領域であり、今後の展開と成果が期待できる。

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