研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
環境発がん物質の低濃度発がんリスクの解明
2.研究代表者名
福島 昭治 (大阪市立大学医学部 教授)
3.研究概要
 遺伝子操作動物あるいは新生児動物などを用いて従来の発がん試験法とは全く異なった発がん中期検索法を開発する。また、発がん中期検索法を用いて、いくつかの重要な環境発がん物質についてヒトが実際暴露されるであろう低濃度域における発がん性を検討する。さらに発がん物質の低濃度暴露と発がん性との関連性、および発がん機序解明を行う。具体的には、ラット発がんにおいて遺伝毒性ならびに非遺伝毒性発がん物質の低用量発がん性には実際上、無作用量があることを"weights of evidence"の観点から実証した。さらに発がん中期検索法としての遺伝子改変動物の有用性とマーカーの検討、がん関連遺伝子の変異の高感度検出法の開発、および発がんの修飾と代謝活性化酵素との関連などについて検討を実施した。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 非常に根気の要る研究で、このグループ以外には世界的に全く行われていない重要な研究である。当初の研究計画に沿ってデータが集積されていて、無作用領域の発見、臓器毎の感受性の差異、高感受性動物の作製、関連マーカーや遺伝子の発見、修飾因子の解明などの進展が見られた。複数の薬剤の複合作用の検討や高感受性動物の利用等で更なる進展が期待できる。しかし得られた結果からどういう結論を出し、それを発がん予防に活用するのは難しいであろう。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 環境発がん物質の低用量域発がん性の検討、発がん中期検索法の開発、がん関連遺伝子変異の検出、内因性DNA障害因子の検出、発がん性判定のためのマーカーの検討、環境要因による発がん修飾など、初期の目標は達成しており成果が出ているが、発表ジャーナルがJapanese Journal of Cancerが中心で数も少ない。研究に手間と時間がかかるとしても重要な研究なので癌関係のトップジャーナル以外に環境問題のジャーナルなどにも投稿して、世界的にその信を問うことが望まれる。「作用がない」ことを証明することは、論理的に不可能であるが、DNA付加体の生成が見られるのに前癌病変が見られない低用量域があるという知見は有意義である。発がん感受性を高めた動物を用いての検討は有望であり、特に無作用領域の考え方で汚染基準を科学的に提示できれば、社会的インパクトは大きいであろう。発がん高感受性動物の作製や遺伝子変異高感度定量法で国内2件、国外1件の特許が出願されていて、応用面での成果も期待できる。
4−3.総合的評価
 戦略的目的を一つとする学際的研究として、国際的にも重要なデータが蓄積されつつあり、更に計画を進展させることにより、社会的に有用な知見が得られる可能性が高いと評価できるが、新しい概念につなげるのは難しいように思われる。他には出来ない国としても絶対必要な研究であり、国際的にその信を問うて、低濃度環境汚染物質の科学的な基礎データとすることが望まれる。

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