研究課題別中間評価結果

 
1.研究課題名
超分子システムによる免疫識別の分子機構解明
2.研究代表者名
田中 啓二 ((財)東京都臨床医学総合研究所 部長)
3.研究概要
 200万の巨大な多成分複合体であり、生化学史上他に例を見ない超分子システムであるプロテアソームの高次構造や分子集合機序の解析を通して免疫識別の分子機構を解明し、この超分子システムの免疫始動制御における役割の解明をめざす。これにより、免疫識別の破綻に基づく免疫病の克服や新しい細胞性免疫の確立が期待される。具体的にはプロテアソームがガンマ型インターフェロン(INF-γ)に応答して「免疫プロテアソーム」と「ハイブリッド型プロテアソーム」を造成し、内在性抗原を迅速に処理することが示唆された。また、抗原提示担当遺伝子群の分子進化の研究から、獲得免疫の保持に至る遺伝子進化の分子機構について新しい知見を得て、免疫識別機構を分子レベルで解明することに貢献した。現在プロテアソーム及びそのパートナーであるユビキチンの研究が進展している。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 当初の研究計画としてプロテアソームのノックアウトマウス作製による遺伝学的研究を目指していたが、現在6種の遺伝子について実行中であり、既に4系統を得ていて、これらの機能解析が進められている。また、「ハイブリッド型プロテアソーム」の発見、内在性抗原プロセッシング機構のモデルの提案、抗原提示担当遺伝子群の「染色体重複仮説」の提唱、NF-κBシグナル伝達系の新しい制御系、ユビキチン類似の新しい蛋白質モディファイァー分子による機能変換システムの発見、若年性パーキンソニズムの原因遺伝子「Parkin」の機能解明、プロテアソームの分子集合機構に関与する因子の発見等、多くの新しい知見を得ており、研究は順調に進展していると云える。基礎的な研究を中心に多数の課題が網羅的に進められてきたが、これからは病態生化学的な研究も含め一層の充実が計られることが期待できる。但し、免疫識別の視点を失わない進め方が重要であろう。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 ハイブリッド型プロテアソームの発見、ユビキチン類似の新しい蛋白質モディファイァー分子による機能変換システムの発見等の研究成果は、多数の論文としてJournal of Biological Chemistry、Gene、Genomics、Biochemical and Biophysical Research Communications等に発表されていて、充分成果が出ていると言えるが、更にインパクトの高い学術雑誌への掲載が望まれる。若年性パーキンソニズムの原因遺伝子の機能解明は、ヒト神経変性疾患との関係で注目すべき成果であり、脳神経系における蛋白質の品質管理機構の解明に繋がることが期待できる。
4−3.総合的評価
 研究代表者は、ユビキチン/プロテアソーム研究の第一人者として、この分野の国際学会への招待講演や学術誌等に総説を多数上梓していて、本研究は国際的にもリーダー格のものと評価できる。

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