研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
変異マウスを用いた発癌制御遺伝子の単離・同定
2.研究代表者名
野田 哲生 ((財)癌研究会癌研究所 細胞生物部 部長、
        東北大学大学院 医学系研究科 分子遺伝学分野 教授)
3.研究概要
 APC遺伝子による大腸がん発癌過程を制御する遺伝子の単離・同定を目指し、マウスを用いたフォワード・ジェネティクスにより、マウス染色体上の複数の候補遺伝子座を同定し、その単離を試みた。
 一方、コンディショナル・ジーンターゲティングを始めとするリバース・ジェネティクスの手法を駆使し、APC遺伝子を始めとする各種がん関連遺伝子のマウス個体における機能を明かにした。 
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
大腸ポリープを始めとするヒトの各種発癌の原因と考えられているAPC遺伝子変異に焦点を当て、マウスを用いてのフォワード・ジェネティクス(F.G.)及びリバース・ジェネティクス(R.G.)という分子遺伝学的手法による解析を大きな2つの柱として、以下の6つのプロジェクトで研究を実施している。
 F.G.1:野生マウスの持つ発癌抑制遺伝子座の固定と遺伝子の単離
 F.G.2:ヒト大腸腺腫症モデルマウスの消化管発癌を抑制する新たな突然変異の解析
 F.G.3:マウスを用いての新規の有効な突然変異導入法の開発
 R.G.1:ウイルスベクターを用いてのコンディショナル・ジーンターゲティング法による発癌におけるAPC遺伝子の機能解析
 R.G.2:トランスジェニック・マウスを用いたコンディショナル・ジーンターゲティングAPC遺伝子及びWNTシグナル系の機能解析
 R.G.3:ジーンターゲティングによるがん関連遺伝子の機能解析
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 フォワード・ジェネティクスのグループは、ヒト発癌モデルマウスであるAPC変異マウスと野生マウス由来の近交系マウスとの交配実験により、消化管腫瘍の発生を大きく抑制する機能を有する遺伝子座を数カ所同定しており、それらの単離・同定を目指して、コンジェニックマウスの作成を行った。
 また、APC変異マウスの発癌を抑制する新たな変異マウスを樹立して、この原因遺伝子の候補となる遺伝子の単離・同定を行った。こうした遺伝子は、大腸ポリープを始めとするAPC変異に起因する発癌過程を制御する機能を有すると考えられ、新たな発癌予防や癌治療の道が拓かれると期待される。
 一方リバース・ジェネティクスの手法では、APC遺伝子の不活化が生体内で上皮細胞を癌化させる分子機構を詳細に解明している。この解析のため、各種組織特異的にCre組換え酵素を発現するトランスジェニックマウスを樹立し、これを用いてのコンディショナル・ターゲティング法による解析を行った。これを用いることにより、マウス生体内の各種細胞で、APC遺伝子の不活化により生じる変化を詳細に解析することが可能となり、発癌の分子機構の解明を目指している。
今後の見込みは以下のとおりである。
 フォワード・ジェネティクスを用いての遺伝子の単離を目指し、発癌制御遺伝子の単離・同定に関しては、今まで通りCAST系が持つ遺伝子座の同定を進めたい。MSM系に関しては今後1年間でQTL解析による発癌制御遺伝子座の同定を終え、これをCAST系との比較を行うが、遺伝子の単離・同定を試みる予定はない。
 新たな突然変異の遺伝子の同定に関しては、今後2年間のうちには候補遺伝子の同定を終える。
 リバース・ジェネティクスに関しては、コンディショナル・ジーンターゲティングを用いた発癌の分子機構の解析に焦点を絞る。
 特に今後2年間でマウス個体の各組織におけるAPC遺伝子およびβカテニン遺伝子の機能を明かにし、その不活化と発癌との関係を解明することができると思われる。
 一方他のがん関連遺伝子に関しても、解析を続けるが、ヒト癌でその不活化が報告されているためPatchedやSMAF4遺伝子を始めとするHedgehogシグナルとBMP/TGFβシグナルに関与する遺伝子に関しても、今後2年間でコンディショナル・ジーンターゲティング法を用いて、マウス個体におけるその機能と発癌への関与を明かにする。
4−3.総合的評価
 フォワード・ジェネティクスとリバース・ジェネティクスを組み合わせて、特に発癌(大腸癌)の現象に分子的アプローチを行い、相当の成果を挙げている。更に発展も期待出来よう。
戻る