研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
安定同位体利用NMR法の高度化と構造生物学への応用
2.研究代表者名
甲斐荘 正恒 (東京都立大学大学院 理学研究科 教授)
3.研究概要
 高分子量蛋白質・核酸、及びそれらの複合体の溶液内立体構造を、迅速に、効率良く、しかも精密に決定するための新しい安定同位体利用NMR技術を開発することを目的として,高度選択的安定同位体標識アミノ酸・モノヌクレオシドの合成法を開発し、さらにそれらを利用して蛋白質や核酸を効率良く調製する技術を確立する。このようにして得られた標識生体高分子を利用して、従来は得ることのできなかった精密な立体構造情報を入手する新たな手法を確立しつつある。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
(東京都立大グループ)
 NMR法の最大の弱点である分子量上限(分子量2万以下程度)を、構造決定の精密化保持しつつ、4-5万程度迄拡張するためには、安定同位体で標識した蛋白質・核酸試料の調製技術の開発が最大の難関となるが、同時にそれらを利用した先端的なNMR技術の開発を進行させることも不可欠である。今後、開発すべき高度な安定同位体利用NMR技術においては、位置・立体選択的に多重同位体標識したアミノ酸・モノヌクレオシド類の調製、それらを蛋白質や核酸オリゴマーに組み込む効率的技術の確立がこの為の重要な二つの要素技術である。
(東海大グループ)
 本グループは様々な新しい重水素化手法を開発し、その知見は多重標識アミノ酸合成に生かされている。
(大阪大学蛋白研グループ)
 高分子量蛋白質のNMR解析上特に大きな問題は信号の数が多くなり過ぎ、相互に重なり合い、NMR構造情報を得ることができないことである。本グループはこのような問題の解決策について検討した。
4−2.研究成果の現状と今後の見通し
(東京都立大グループ)
 安定同位体標識核酸の調製技術に関しては共同研究を行い、欧米の競合研究室に先駆けて成果を収めた。標識核酸を利用したNMR研究の結果、DNAのWatson-Crick 水素結合を介してのスピン結合の観測など大きなインパクトを持つ成果を数多く生み出しつつある。
 完全13C,15N均一標識し、全てのプロキラル原子団等を位置・立体選択的に重水素化したアミノ酸の調製は、最も困難な段階は既に過ぎ、今後は多重合成を目指して努力している。
 安定同位体標識アミノ酸を蛋白質に組み込む手法として、細胞抽出液中の蛋白質生産系を用いる“無細胞蛋白合成系”を利用した。この手法により数種の蛋白質の調製を試みており、PPI(Peptidyl proryl cis-trans Isomerase)に関しては標識アミノ酸が予定通り取り込まれていることを、NMRスペクトル測定から明らかにしている。安定同位体標識技術としては最も先端的な手法が確立したことを受けて、今後は、800MHzNMRをはじめ最新の測定装置と測定技術を組み合わせ、或いはこれらの標識体の利点を徹底的に活かしきった新たな測定手法を開発することにより,構造生物学への応用に最適の安定同位体利用NMR技術が生みだすことができる。
(東海大グループ)
 特に、グルタミン酸を鍵中間体とする長鎖アルキル基を持つアミノ酸類の合成法は、大変重要な貢献である
(大阪大学蛋白研グループ)
上記の問題解決のために最適な標識手法segmental isotopelabelingを開発した。今後の標識技術の一つの手法として発展して行くと考えられる。
 今後最も重要な優先研究項目は立体選択的に重水素化した、多重標識アミノ酸を20種類全て合成し、それらを同時に組み入れた蛋白質を調整することにある。また、立体選択的重水素化多重標識アミノ酸を組み込んだ蛋白質試料では、高精度の立体構造決定と、より高分子量の蛋白質の構造決定が可能となる筈であり、これらの予想を実験により証明することが本研究の目標である。
 水素結合を介したスピン結合については、構造決定への利用などの観点から研究を進めているが、今後は、核酸の水素結合距離の圧力依存性などを含めて、詳しい解析を進める予定である。
4−3.総合的評価
 極めて独創的な手法により世界をリードする研究を続けている。開発した方法論の応用範囲が広がったことは評価できる。protein-ligationによって安定同位元素を組み込める技術の開発は、将来性が高い思われる。
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