研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
器官形成の分子機構
2.研究代表者名
浅島 誠 (東京大学大学院 総合文化研究科 教授)
3.研究概要
 両生類の胞胚期未分化細胞塊(アニマルキャップ)を用いて、血球、筋肉、脊索、肝臓に分化させ、さらにアクチビンとレチノイン酸処理して、腎臓に分化させることに成功した。またこれらの形成に関与する新規の遺伝子をクローニングした。その中にはヒトの腎疾患と深く結びついているものもあった。また世界で初めて、試験管内でつくった腎臓(原腎管)を予定腎臓域を除去した部分に移植を行ってそれが機能することを確認した。また試験管内で未分化細胞からの心臓形成率も従来の20%のところから60%まで誘導できるようになった。神経形成に関与する新規の遺伝子も多種クローニングし、解析しつつある。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
(1)腎臓形成遺伝子探索グループ
  1. 腎形成の初期の誘導に関わると思われるXlim-1の遺伝子のいくつかのmutantをとって腎形成とのかかわりについて調べた。またXPax-8との関連についても調べた。
  2. 腎臓形成に関与する新規遺伝子のクローニングと解析を行った。
(2)神経形成関連遺伝子探索グループ
  1. 胚発生における神経形成に関与するいくつかの遺伝子を解析した。
(3)新規の臓器形成グループ
  1. 心臓形成、血球分化、膵臓形成について研究を実施した。
全般的にみて、頭書の研究目標に対してほぼ順調に進んでいるといえる。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
(1)腎臓形成遺伝子探索グループ
  1. 試験管でアニマルキャップを切り出して、アクチビンとレチノイン酸を処理することによって腎管ができることを明らかにした。また、試験管内でつくった腎臓を正常胚予定腎臓域を切り出した胚に移植したところ、かなりの割合で修復し生存性を高めた。このことは将来の臓器移植等に大きな展望を与えることになるであろうと考えられる。そして、世界で初めて試験管内でつくった臓器を生体内に移植して機能させることに成功した。
  2. 上記のように腎形成に関与する重要な遺伝子が数多くクローニングされ、解析された。
  3. 今後は腎管や糸球体形成に関与する遺伝子の機能を阻害するようにEnRと結びつけたコンストラクトをつくり、新しいAR1P-1の機能を調べる。また、腎臓形成に関与するマスター遺伝子を探し出す。
(2)神経形成関連遺伝子探索グループ
  1. アクチビン処理したアニマルキャップから目や鼻、前眼構造をもった完全な頭部形成に成功している。このことは部域性をもった器官形成にも成功したことになる。この方法を用いて、遺伝子Pをクローニングし、解析を行った結果、まったく新しい遺伝子であり、中枢神経の形成と深く関与していることが明らかになった。
  2. 感覚器官として、単独で目や耳の形成を行うことに初めて成功した。そして目に発現する新しい遺伝子「ひとみ」がクローニングされ、解析された。試験管内で初めて単独の感覚器官を分化誘導させた。
  3. 今後は、さらに初期発生において神経形成に深く関わっている重要な遺伝子の探索を行う。
(3)新規の臓器形成グループ
  1. 心臓形成について、これまではアニマルキャップでのアクチビン処理でできる心臓は約20%であったが、心臓の形成率を60%まで高率に頻度をあげることに成功した。
  2. 血球分化においてもアニマルキャップにアクチビンやサイトカインを混合することによって、白血球、リンパ球の他に赤血球をつくることも可能になっている。特にいろいろなサイトカイン(アクチビン、BMP-2,4、SCF、bFGF、IL-11など)の組み合わせにより、より新しい血球分化の制御が可能となった。
  3. 膵臓形成は今、世界で激しい競争の中にあるが、独自の系で膵臓の形成を可能とした。初期にめざしていた一つの大きな器官形成が可能となりつつある。それらはインスリンやXHox-8など膵臓特異的遺伝子の発現もみられた。更に検討を重ねた結果、未分化細胞とアクチビンとレチノイン酸のみで初めて膵臓形成に成功した。この外植体からはインスリンやグルカゴン、XHox-8 など膵臓特異的遺伝子の発現を免疫組織学的にも検出に成功した。
  4. 今後、膵臓形成に関与する新規の遺伝子を探索し、またカエルのみならずマウスやヒトでも膵臓形成関連遺伝子をクローニングする。さらに膵臓除去胚をつくり移植し、機能するかどうかを調べる。心臓、肝臓についても、現在の系を完全に確立して分子生物学のレベルで解析を行ってゆく。
 以上のように3つのグループとも順調に研究が進展し、この分野に新しい成果をもたらしたこれらの成果については、ScienceやCellでも紹介された。
4−3.総合的評価
 器官発生をガラス器内で行わせることに成功したことは大きな成果であり、全体として新しい分野を開拓し、エネルギッシュにやっているが、よりインパクトの高い国際誌への発表が望まれる。今後は分子メカニズムの方向の充実が望まれる。一方、これをヒトを含む哺乳動物の系で行えば更に応用に向けて飛躍的進歩が期待されよう。
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