研究課題別中間評価結果

 
1.研究課題名
有機/金属界面の分子レベル極微細構造制御と増幅型光センサー
2.研究代表者名
横山正明(大阪大学 工学研究科 教授) 
3.研究概要
本研究は、電圧印加された有機顔料薄膜/金属界面の層構造に光を照射すると約10万倍に及ぶ量子効率を示す光電流が誘起されるという研究代表者らが発見した増倍現象の機構を解明し、有機/金属界面の極微細構造制御に基づいたこの増倍特性の制御を目指している。また、この光電流増倍現象を利用した高感度増幅型光センシングデバイスの構築を目指す。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 光増倍現象を示す材料の探索を行い、最初に見出されたペリレン顔料(Me-PTC)だけでなく、多くの有機材料で同様の現象が起こることを見出した。また、その過程で、高速応答化の材料・デバイス設計の検討を進め、今後の応用研究に向けての材料選択・デバイス構造の選択の幅を広げた。また、光波長変換素子、光増幅素子、光演算素子などのデバイス応用も進め、新規なデバイスの実現の可能性を示した。今後は高速応答性の更なる改善とデバイス動作の安定制御の進展が期待される。
 光電流増倍現象のメカニズムの解明は、当初提案した有機/金属界面の不完全接触キャリアトラップモデルの正当性の検証に多くの努力が払われてきた。
4−2. 研究成果の現状と今後の見込み
 フタロシアニン、ナフタレン誘導体、キナクリドンなど有機半導体と呼ばれる一群の光電導性有機顔料蒸着膜において光電流増倍現象が観測され、本現象が有機薄膜の本質的な特性に起因するものであることを明らかにした。さらに応答速度を1秒程度にするC60蒸着膜、さらには大面積化が可能な有機顔料分散ポリマー膜においても増倍電流を見出し、材料ならびに実用可能な材料形態の選択の幅を拡大した。これは、今後のデバイス応用開発に大いに役立つことが見込める。
 デバイス応用として、有機ELダイオードと一体化することで実現した光−光変換デバイスは、増幅変換効率の向上(25倍)により光増幅デバイスへ展開したこと、また、有機/有機ヘテロ界面での二波長照射により光演算デバイスのNOT素子を実現したことなど、興味深い成果である。応答速度のさらなる高速化が必要であるが、AND演算素子など、挑戦的なデバイスの開発が見込める。
 光電流増倍現象のメカニズムの解明は、光電流増倍特性の表面微細構造依存性、光電流増倍素子動作時の内部電圧分布の測定、界面構造モデルによる光電流増倍過程のシミュレーションなどいろいろな側面から、当初提案した、有機/金属界面の不完全接触トラップに光励起キャリアが蓄積されるというモデルの正当性が検証されたとするが、界面の不完全接触構造の直接観察がなく、課題を残している。
4−3.総合的評価
 光電流増倍現象を、多くの新しい材料及び材料形態へ拡大し、応答速度を改善し、いろいろなデバイスへの応用展開を図るなど、本現象の発見者、開拓者として、メカニズムの解明からデバイス応用まで地道な努力がなされていることは十分に評価される。その中で、本現象の応答速度が、当初は数分であったものが1秒程度に高速化したこと、有機ELとの一体化による光−光変換素子から光演算デバイスの展開など着実な進展と言える。ただし、メカニズムの解明では界面不完全接触モデルを一貫して主張してきており、直接界面構造を見ることなく、多くの時間を費やしていくつかの傍証を上げ、全容が解明されたとしているが、説得力のある説明にはなっていない。本現象を利用したデバイスへの応用の大きなポイントは応答速度の高速化とデバイスとしての安定性であろうが、材料形態の選択と界面構造の制御で十分に改善の余地はあると判断される。尚、新しい現象の発見に基づき、そのデバイス応用展開に重点を置く本研究チームの性格から、今後は、工業所有権の確保も考慮した研究の推進を期待する。

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