研究課題別中間評価結果

 
1.研究課題名
ナノ物質空間の創製と物理・化学修飾による物性制御
2.研究代表者名
山中昭司(広島大学 工学部 教授)
3.研究概要
 新規な物性を有する新物質の開拓を、ナノ空間を有する物質の創製から出発し、結晶構造内部からの化学修飾、光励起なの物理修飾による物性制御の可能性を探索する。化学修飾による新規物質の開拓(物質創製グループ)では、窒化物系二次元層状結晶およびシリコンクラスレートを中心に新規物質系の探索と開発を行う。物理修飾による新規物性制御(光物性研究グループ)は、ナノ物質空間での自由度を利用して、励起子と光の相互作用を調べ、新奇な物理現象の発現とその理解を目指す。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 化学修飾による新規物質の合成は、高圧合成装置を早期に立ち上げ、層状窒化物による新しい高温超伝導体(Tc=25.5K)の合成に成功した。また、各種のシリコンクラストレートを高圧合成し、シリコンクラスレートで最も高い超伝導臨界温度(Tc=8.0K)を示すバルクの合成に成功する他、ヨウ素を内包するp型半導体クラスレートの合成など高圧合成による新規物質の開拓は順調に進展して来ている。また、新規物質を薄膜として実現するために、レーザーアブレーション及び電子ビームによる薄膜合成装置を立ち上げ、シリコンクラスレート、窒化物超伝導体を薄膜として合成する開発を開始した。薄膜による具体的成果はこれからであるが、最終目標の一つである金属原子を内包しないシリコンクラスレートSi46の薄膜合成に手がかりをつかみつつある。
 物理修飾による物性制御はGaAs量子井戸、有機無機複合化合物の自己組織閉じこめ構造を利用した励起子発光制御を実験的研究と低次元半導体中の励起子系の非線形光学応答の起源の理論(ボゾン化法)を検討してきいる。
4−2. 研究成果の現状と今後の見込み
 高圧合成によるb相層状窒化物結晶MNX (M = Zr, Hf; X = Cl, Br, I)にアルカリ金属をインタ−カレ−トして電子ドープすることによって、Tcがかなり高い新しいタイプの高温超伝導体が創製できることを発見した。特にβ−LixHfNClはTcが25.5Kと高い値を得た。 この成果は、銅酸化物以外で発見された高温超伝導体として国内外で注目を集めている。 この系について、人工格子薄膜作成法で、高温超伝導薄膜の作成を目指した研究を進めている。また、高圧合成法により、Baを内包するBa8Si46バルク超伝導体の合成に成功し、Tcが8.0Kを示すことを明らかにするなど、シリコンクラスレートでも超伝導体になることをはじめて発見した。また、ヨウ素を内包するp型シリコンクラスレートI8-xSi46-yの高圧合成にも成功するなど、超伝導体、半導体の各種シリコンクラスレートの創製により、新しい研究分野を確立しつつある。金属原子を内包しないシリコンクラスレートSi46合成を大きなターゲットとしており、シリコン基板上に薄膜として作成できれば、ワイドバンドギャップのシリコン同素体として、工業的にもインパクトのある研究に展開できる可能性がある。
 物理修飾グループの有機無機複合化合物における超高速非線形過程からは超高速光スイッチへの応用が期待される。
4−3.総合的評価
 新物質合成の豊富な経験に裏打ちされたユニークな着眼によって、新しい物質群を次々と創製して来ている。その中で、層状窒化物によってTcが25.5Kの高温超伝導体を発見したこと、シリコンクラストレートではじめて超伝導体になることを明らかにし、国内外の材料、物理関係の研究者にインパクトを与えていることは高く評価される。ただ、現状では、Tcが25.5Kどまりで、銅酸化物超伝導体を越えるものになっていない、薄膜超伝導体に成功していない、などで課題を残している。この課題についてブレイクスルーを期待したい。また、物性的には超伝導に特化される傾向があったが、ワイドギャップ半導体としてのSi46の薄膜作成に成功すれば、応用的にも興味が持たれ、新しい機能材料研究分野が生まれることになる。総じて、現状の舵取りは適切なもので、新物質創製という観点から十分に評価できる。ただし、物質創製グループと光物性グループの相互関係がほとんどなく、両者の双方向的な協同の成果が、まだ、見えてきていない。

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