研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
金属微細トンネル接合システムの物理と素子への応用
2.研究代表者名
大塚洋一(筑波大学 物理学系 教授)
3.研究概要
 本研究チームは、「微小トンネル接合研究グループ」と「量子カオス研究グループ」とからなり、前者では、金属微小トンネル接合で生じる単一電子トンネル現象に研究のねらいを絞り、そのような接合における新しい物理概念の検証を行うとともに、応用への可能性を検討する。また、後者では、量子ドットにおいて顕著になる電子のエネルギー準位の離散性に関し、準位の相関や量子カオスとの関連についての理論的研究を進める。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本チームからは瞠目すべき成果がいくつも出ており研究の進捗は極めて順調と言える。 特に単一のクーパー対箱を用いた固体素子における世界初の量子ビットの成功は計画当初時点では実現できるとは思っていなかった成果で、学術と応用の両面から世界的に高く評価され、国内的には1999年度の仁科記念賞を受賞する成果となった。また、微小ジョセフソン接合のエネルギー散逸により誘起される超伝導絶縁体転移の観測、強磁性単一電子トランジスターによる磁気抵抗巨大化と磁気クーロン振動の観測などは何れもレベルの高い成果で、第22回低温物理学国際会議では本チームから3件の招待講演を出した。 量子カオス研究グループもこの分野の世界的研究者を共同研究者として、理論物理学者だけでなく整数論数学者からも注目される結果を出している。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 「微小トンネル接合研究グループ」の成果として、固体量子ビット素子は単一クーパー対の電荷数が異なる二つの巨視的量子状態がコヒーレントに重なり合うことを初めて実験的に確認したことで学術的に極めて高く評価されるとともに、固体集積回路素子としての将来の量子コンピュータ実現の可能性を示すものである。次のステップとして2量子ビット素子の実現が期待される。微小ジョセフソン接合のエネルギー散逸による超伝導絶縁体転移の実験的実証は学術的に重要な知見である。磁気クーロン振動の観測は単一電子トランジスター(SET)に新しい分野を拓くものである。その他応用面として、超微細加工技術により3nmレベルの大きさのSETの作製に成功し、室温においてゲート変調による電流のクーロン振動を実現し、室温駆動のSETデバイス実現の可能性が示された。更に、不揮発型の単一電子メモリの開発も見込まれる。
 「量子カオス研究グループ」はランダム行列理論の新展開を図り、エネルギー準位統計での普遍性の理解を深めた。さらに、量子ホール系、金属微粒子、超伝導渦系などの物理に対してレベルの高い理論展開を進めてきており、メゾスコピック物理の理解が深まることが見込まれる。
4−3.総合的評価
 本チームの成果は世界的にも国内的にも大きな注目を集めていると言える。「微小トンネル接合研究グループ」の固体量子ビットの成果は特筆に値するものである。その他にもいくつかの目標で十分な成果を上げたのは高く評価できる。基礎的にも応用的にも、いくつか大きなき手がかりをつかみつつある。今後は、基礎としての地固めと応用としての展開をどのように天秤にかけるか、よく方向を見極める必要があるが、大きな成果が期待できる。「量子カオス研究グループ」も、予想外の数学上の寄与をするなど、興味ある結果を出していると判断できる。両グループが連携を深めることで、さらに面白い展開ができればと期待する。

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