研究課題別中間評価結果

 
1.研究課題名
銅酸化物超伝導体単結晶を用いる超高速集積デバイス
2.研究代表者名
山下 努 (東北大学 未来科学技術共同研究センター 教授)
3.研究概要
 本研究は銅酸化物高温超伝導体が積層ジョセフソン接合と類似した物性を有することを利用し、その単結晶を用いて高性能電子スウィッチ素子を開発することを目指す。この素子は単結晶の積層方向に流れる超伝導電流に磁界を加えて、電圧状態をスウィッチさせるものである。本研究ではこの素子の実現のための新しいプロセス技術の開発とそのデバイス物理の解明を進めることにより、現在の高速通信と情報処理に使われている周波数の約100倍以上の周波数で動作する増幅スウィッチ、記憶、検波素子の実現と、超伝導マグネット用大電流スウィッチの開発を目指す。この超伝導体を利用することにより、デバイスの密度集積化、超高速動作、低消費電力化等が可能になる。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 超高速集積デバイス作製と言う具体的目標に向かって、これまでに新規の単結晶育成技術を開発して電子デバイス用の高品質超伝導体単結晶を育成し、その単結晶を微細加工するための集束イオンビーム加工技術を確立した。またデバイスの諸特性を評価するためのシステムを構築した。作製した微小素子中で種々の量子効果が起きていること、および、素子中の磁束が高速で運動することを確認した。当研究チームは20名弱の人数で構成され、研究代表者を中心に比較的纏まっている。研究遂行上、特に想定外の新展開と云えるものはないが、当初の目標に向かって比較的順調に進んでいる。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 これまで挙げた成果として、走査型電子顕微鏡を具えた高性能集束イオンビーム加工装置を開発し、1μm2 以下の微小デバイスを作製した。この素子で単一超伝導電子トンネル効果および量子サイズ干渉効果が起きたことを確認した。また、超伝導体単結晶中を運動する磁束の速度が光速の1%に達することを確認し、周波数THzの電磁波の発生が予測できた。一方、理論グループは高温超伝導体のジョセフソン磁束の動力学についてシミュレーション計算を系統的に行ない、広い周波数範囲でプラズマによる電磁波の発生が可能であることを示した。
 今後も当初の方針に沿って単結晶を用いて高温超伝導電子デバイスの開発を進めて行く。μmサイズ、省電力のTHz帯の周波数動作素子、ピコ秒以下のスウィッチング動作素子、単電子対トンネル素子、単電子メモリ素子等の作製を目指す。更に種々の成果を挙げることが期待される。
4−3.総合的評価
 高温超伝導体が持つ優れた天然の特性を利用した電子技術の開発は将来の産業上極めて重要であり、当研究チームはその先取りとしてスタートしてこれまでに数々の成果を挙げ、今後もその活躍が期待される。当研究チームと類似のことを行なっている所としてはTHz周波数発振素子の開発研究を行なっているドイツ・エアランゲン大学等があり、当研究チームと共に世界の最先端を進んでいる。
 高温超伝導体を利用した素子の密度集積化、低消費電力化、単電子動作のメモリやトランジスタの作製、超高速動作、THz周波数発振等が実現すれば、将来の大規模情報ネットワーク構築に応える高速コンピュータ、量子コンピューティングに必要なデバイスを供給することになる。本研究を世界に先駆けたわが国のハイテク技術の開発研究として大いに支援して行く必要がある。

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