ピックアップ論文紹介

Screening ethnically diverse human embryonic stem cells identifies a chromosome 20 minimal amplicon conferring growth advantage.

By International Stem Cell Initiative, Amps K, Andrews PW et al.
Nat Biotechnol. 2011 Nov 27;29(12):1132-44.

 ヒトES細胞を長い間in vitro(培養皿の上)で維持していると非ランダムな遺伝的変化が起こることが知られている。核型の変化としては主に12、17、20番染色体またはX染色体の全体あるいは一部が増幅する例が報告されている。また核型としては正常だが染色体上の一部の構造変異が出現することがあることも知られている。4、15、18、あるいは20番染色体では染色体上の一部のコピー数が増えるような、また10番染色体では減少している例が知られている。特に20番染色体では複数のES細胞株でこうした変異が確認されている。このような遺伝的なまたはエピジェネティックな変化は、ES細胞を再生医療に使用するという目的からすると無視できない問題である。ES細胞やiPS細胞を使用するに当たってそうした変化の影響を最小限に留めるだけではなく、それらのメカニズムを理解することも重要である。またこうした研究は多能性幹細胞の運命決定機構(自己複製、細胞死、分化)を探求するのにも重要となる。

 ES細胞は培養皿の上で多能性を維持したまま培養されることから、もしこのような、細胞にとって特殊な条件下での生育に有利となる遺伝的変異が起きたとするならば、その後の細胞集団はしばらく培養環境に適応した性質を維持し、それが優性となるであろう。従って、これまでに見られたような、ランダムではない特定の染色体だけによく見られる全体もしくは一部の増幅や欠失が、優性となることを助長するような変異である可能性が高い。多能性幹細胞の運命は自己複製、細胞死、分化のいずれかなのであるが、培養皿上で多能性を保っているES細胞は自己複製能を維持していると考えられる。とすれば優性となることを助長する変異とは、すなわち細胞死、分化への方向に対してネガティブで、一方、自己複製に対してポジティブに働くような変異ということになるであろう。

 こうした観点から本論文では、核型分析、高解像度SNPアレイ、カスタムDNAメチル化アレイの三つを用いて多様な遺伝的背景に由来するヒトES細胞株125株をそのearly-passage(培養初期)の細胞とlate-passage(長期間培養後)の細胞を用いて培養中に起こる変異に着目して研究を行っている。そして変異の詳細について調べたところ20番染色体上の領域20q11.21の増幅が複数の細胞株で認められ、それは培養中に起きた変化であることが明らかとなった。20q11.21座に存在するBCL2L1遺伝子が抗アポトーシス活性をもつBcl-XLをコードすることから、細胞周期の促進ではなくアポトーシスを抑制することで細胞がより生き残りのために有利に働く変異として定着するという可能性を示した。

 まず核型については、調べた多くのES細胞株で正常であり、120株中79株で培養初期も長期間培養後も正常であった。しかし一方で継代数が増えるほど核型に異常が認められる傾向にあり、培養初期に比べて長期間培養後は約2倍になった。とりわけ1、12、17、20番染色体において全体あるいは断片のコピー数の増加が認められ、これまでの知見に合致する結果が得られている。一方、現代の技術革新により、核型の異常が観察されない場合でも高解像度SNPアレイを用いることで、数キロ塩基対レベルでの詳細な染色体上の領域の重複あるいは欠失を検出することができる。そして高解像度SNPアレイを用いた解析の結果、構造変異体は偶発的に起こったものであり、培養条件や培養期間には関連していない(1、12、17番染色体)ことが明らかとなった。

 さらに、核型としては正常なES細胞株の22株で、20番染色体に構造的変化すなわち小さなアンプリコンを同定した。そのうち17株では培養初期では異常が見られず、長期間培養後に異常が見られた。すなわちこれは培養中に変異が起きたことを示している。共通してみられるアンプリコンのうち最小のアンプリコン内には13の遺伝子が存在し、そのうちの3つの遺伝子ID1、HM13、BCL2L1(転写抑制因子、膜結合型タンパク質消化酵素、抗アポトーシス因子をそれぞれコードしている)はES細胞で発現していることが既に知られている。この3つの遺伝子の発現を4つの株で調べたが、DNA上のコピー数の増加にともなって発現量が増加するという実験結果は得られなかった。しかしながら、Bcl-XL(BCL2L1にコードされる)はアポトーシスを抑えてES細胞のクローニング効率を高めるという報告やBcl-XLを強制発現させたES細胞では明らかな増殖優位性を見せたことから、アンプリコン内にあるBCL2L1遺伝子のコピー数の増加が増殖優位性をもたらすと著者らは考えている。

 著者らはエピジェネティックな変化の指標としてDNAメチル化パターンを調べたが、それらはランダムに変化しており、メチル化の変化が起こる領域と染色体異常との間に関連性を見出すことはできなかった。

 本論文は多様な民族に由来する多数のヒトES細胞を用いて、今まで知られていたヒトES細胞の20番染色体上の領域のコピー数の増加が自己複製に有利に働く可能性を示し、その責任遺伝子をBCL2L1であると同定した。また著者らは単一の候補遺伝子が見つからなかったほかの12、17番染色体においては複数の遺伝子が関与している可能性を提示している。核型だけでは分からない染色体上の遺伝的な変化が培養中に起きることは避けられないと思われる。とすればそれを最小にするための培養法、最終的にそうした変異のある細胞を取り除くための手法の開発が今後重要になってくるものと思われる。臨床応用に向けた、さらなる詳細かつ迅速な解析が期待される。

(解説:吉田知則、本間美和子)

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る