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Histone chaperone ASF1A is required for maintenance of pluripotency and cellular reprogramming.

By Gonzalez-Munoz-E, et al.
Science : 345, 822-825, 2014

 未受精卵は精子核ならびに体細胞核を再構築し初期化する因子を有している。体細胞へ特定の転写因子を発現させるiPS作製法と並んで胚性未分化細胞を作成するための有力なツールであることから、医療応用への大きな期待が寄せられている。本論文は、受精前の卵母細胞の中で分裂中期Ⅱに極めて多く検出される、ヒストンシャペロンタンパクのひとつantisilencing function 1A (ASF1A) というヒストン再構築因子が、成人皮膚線維芽細胞(hADFs)を多能性細胞へとリプログラムさせる際に必須の因子で有ることを初めて示した。さらに卵母細胞が分泌する増殖因子GDF9存在下、hADFsにASF1A, OCT4二つの遺伝子を発現させるだけで初期化に成功したことから、体細胞リプログラミングのメカニズム解明には、分裂中期Ⅱにある卵母細胞が重要な役割を果たすことを示した。

 卵母細胞には多様なステージがあるが、これまでの卵母細胞内因子を用いた細胞初期化の知見により、分裂中期Ⅱのステージにある卵母細胞が初期化について最も能力が高い事が知られていた。その根拠となる分子は、既存の転写因子遺伝子導入法によるリプログラミングにも関与する可能性が高く、その分子的な性状を明らかにする意義が大きいと考えられた。そこで分裂中期Ⅱにある卵母細胞に種を超えて共通して発現量が高い遺伝子を解析したところ、ヒストンの代謝と再構築に関与するシャペロンタンパクのひとつASF1が浮上し、酵母では一種類であるが、ヒト分裂中期Ⅱ卵母細胞では二つのASF1遺伝子AとBのうち、ASF1Aが特に高レベルで発現していた。それはヒストンH3とH4に特異的に結合するシャペロン分子で、ヒストン制御因子のひとつhiston regulator A (HIRA) やクロマチン機能に関与するchromatin assembly factor 1 (CAF-1)と協調して遺伝子の複製、転写、修復、さらにリプログラミングに関与することが予想された。

 具体的には、ASF1AはH3K56 アセチル化(H3K56acと表記、ヒストンH3に存在する56番目のアミノ酸リジンのアセチル化修飾)へ関与する事が知られていたが、それはヒトの体細胞と胚性幹細胞の二つを比較した際に、遺伝子のエピジェネティックな変化として最も顕著に見出された指標のひとつでもある。このことから、ASF1AはH3K56を介する遺伝子転写ネットワークを介して、多能性に関与する事が予想された。

 そこでヒト皮膚線維芽細胞ADFsがiPS細胞へ初期化する際に、ASF1Aがどのような役割を果たすかを検討した。体細胞を卵母細胞特異的増殖因子GDF9とともに培養する条件下では、ASF1A遺伝子とOCT4を過剰発現させただけで多能性細胞へリプログラムさせる事が出来た。その発現量はヒト胚性幹細胞で最も高く、次いで幹細胞が分化する過程では、ASF1A遺伝子ならびにタンパク発現量は他の多能性マーカー遺伝子群(OCT4, NANOG, SOX2, DNMT3B)と同様、分化の時間軸とともに減少した。また、ヒト胚性幹細胞株であるH9細胞にASF1Aのみを過剰発現させると、6日後には多能性マーカー遺伝子の発現量がおよそ10倍に上昇した。さらに過剰発現を続けた際には、それらの多能性細胞を胚葉体まで増やして分化培養条件下に置き換えた際に通常認められる3胚葉系への分化はかなり遅れて進行した。その理由は、多能性遺伝子発現量が低下しにくく分化遺伝子が誘導されにくいためと考えられた。ヒト体細胞にASF1Aを過剰発現させた場合にも、多能性遺伝子発現の増大が認められた。

 以上の結果から、ASF1Aが恒常的に発現する事により多能性の維持に働くと考えられ、多能性の獲得にも関与する事が示唆された。そこでヒト体細胞へshRNAを導入してASF1A発現量を抑制した上で、山中4因子(OSKM)の遺伝子を導入したところ、TRA-1-60陽性のiPS細胞コロニー数は著しく減少し、ASF1A発現低下のレベルと相関することが観察された。ヒトES細胞H9株へASF1A-shRNAを導入した場合は、もともと発現する多能性遺伝子レベルが減少し、細胞コロニーの形態異常も観察された。このように、ASF1Aが多能性の維持と多能性を獲得するプロセスに必須で有ることが判明した。

 次に、個々の山中因子とASF1A遺伝子だけを組み合わせてリプログラミングが起こるかどうかを調べたところ、OCT4とASF1Aをヒト体細胞へ過剰発現させた3−4週間後には、TRA-1-60陽性iPS細胞様のコロニーが出現し、山中4因子を導入した場合よりも若干多くみられた。この条件下で、分裂中期Ⅱ卵母細胞がパラクラインに作用する事で知られる複数の「卵母細胞分泌因子」がリプログラミングに関与する可能性について検討した。すなわち、ASF1A, Oct4遺伝子導入後に増殖因子GDF9を48時間添加した条件(AO9と表記)では、典型的なiPS細胞コロニーを形成させる事に成功し(AO9-iPSと表記)、さらに6~10継代数までES細胞と同様の幹細胞マーカー遺伝子を発現し続けた。しかしながら、OCT4とGDF9のみの組み合わせでは初期化細胞コロニーは得られなかった。AO9-iPS細胞は、通常のiPS細胞と同様に、核型は正常で3胚葉系への分化がみられ、またテラトーマ形成能も観察された。

 エピジェネティックな変化に注目すると、ASF1Aをヒト皮膚由来線維芽細胞に過剰発現させた際には、ヒストンH3K56のアセチル化が著しく上昇し、OCT4遺伝子と共発現させた場合にはさらにその上昇が観察された。このヒストンH3アセチル化はASF1Aにより細胞周期のDNA合成期にH3のたった1%に起こる事が示唆されているが、今回免疫沈降法を用いた解析により、ヒト体細胞、iPS細胞、ES細胞内でASF1AとH3K56acは相互作用しており、さらにASF1AとOCT4を発現させた72時間後の体細胞においても、両者が直接相互作用する事が観察された。さらにクロマチン免疫沈降実験により、H3K56acはASF1A遺伝子導入後、NANOG, OCT4, SOX2各遺伝子プロモーター領域に存在していたことから、ASF1AとOCT4はおそらくH3K56acのようなエピジェネティックな変化を介して初期化遺伝子の活性化と発現のために、中心的な役割を担うことが示唆された。細胞内情報伝達についてのパスウェイ解析により、AO9過剰発現によりp38シグナルとIL-6シグナル経路の制御が関与する事が示されるとともに、体細胞ではGDF9刺激により、遺伝子発現に関与するR-SMADs2/3のリン酸化が起こる事が明らかとなった。

 本研究は、卵母細胞が初期化に関与する仕組みに着目して、それに由来する二つの因子ASF1AとGDF9による初期化メカニズムの一端を明らかにした。おそらくASF1AはヒストンH3K56のアセチル化により初期化遺伝子発現を極めて初期に誘導し、GDF9はSMAD 2/3を活性化してOCT4とASF1Aによるリプログラミングが起こりやすい環境を整えたと考えられる。このようなリプログラミングに関与する新たなファクターの同定により、iPS細胞作製法の開発がより速く前へ進むと期待され、さらにまた、生物学的な初期化のメカニズム解明へも大いに貢献する成果として注目される。

(解説:本間美和子)

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