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Genetic correction of human induced pluripotent stem cells from patients with spinal muscular atrophy.

Genetic correction of human induced pluripotent stem cells from patients with spinal muscular atrophy. Corti, Stefania et al., ミラノ大学マッジョーレ病院・神経内科学ディノフェラーリセンター*、他
Sci Transl Med. 2012 Dec 19;4(165):165ra162. doi: 10.1126/scitranslmed.3004108.

 脊髄性筋委縮症(SMA)は、遺伝性神経変性疾患のひとつで出生後早期に致死となる深刻な病気である。本論文は、SMA患者皮膚細胞を材料としてエピソーマルベクターを用いてiPS細胞を作製し(SMA-iPSCs)、本疾患の原因となるスプライシング異常遺伝子変異を、一本鎖オリゴヌクレオチドを用いて正常型であるSMN1様遺伝子型に修復した後(treated SMA-iPSCs)、もう一度患者自身へ戻す自家移植療法が今後有効となる可能性を、SMA疾患モデルマウスを用いて実験的に示した。SMA-iPSCsを分化させた運動ニューロンは、病態の一部を再現する表現型を示したが、原因と考えられる遺伝子変異を修復した後は、運動ニューロン機能は正常型へと改変され、その修復型運動ニューロンを移植したSMAマウス寿命は延長した。このように疾患由来iPS細胞を臨床応用へと活用する一例として、疾患の原因遺伝子を遺伝的に改良した後、目的の運動ニューロンへ分化させるというSMA移植治療の実例をモデル動物で示した。

 SMAはSMN1遺伝子の欠失または変異により、SMN1機能の喪失が発症原因となる常染色体性劣性の遺伝性疾患である。完全長SMNタンパクの発現低下等の異常は脊髄運動神経を変性させ、筋力低下ならびに運動麻痺の急速な進展により早期に死亡し、現時点での有効な治療法はない。SMN1遺伝子exon 7のC/T塩基対変異によりSMN2遺伝子を生じると、スプライシング異常により完全長SMNタンパクレベルは10分の1以下となり、exon 7を欠く不安定な短縮型タンパク(SMN7)を生成するので、SMN2コピー数が少ないほど重症化する。そこで、SMA患者由来iPSCsを作成後、異常SMN遺伝子が欠損したexon7を復帰させるような遺伝的改変ができれば、正常に機能する運動ニューロンを分化させることが出来ると期待され、まさに自家細胞を利用する細胞治療への道を拓くことになる。ただしその際に、遺伝子挿入変異を起こさず癌化のリスクが無い遺伝子ベクターを使用することが、重要な条件となる。

 著者らはこれらの課題克服を目指して、I型SMA患者2名から採取した線維芽細胞を出発材料として、Oct4, SOX2, NANOG, LIN28, c-Myc, KLF4を組み合わせた連結遺伝子をコードするエピソーマルベクターを利用してリプログラミングを行い、患者に由来する2種類のiPS細胞を作成した(STMA-iPSC-1, -2)。このベクターは、ゲノムへの挿入変異を回避するために使用したもので、これらiPSCsでは、いずれ細胞から外来遺伝子は消失しゲノム変異も起こらない。患者の父親由来のiPSCs(HET-iPSC-1)、正常人由来iPSC19.9も同様に作成しコントロールとして用いた。すべてのiPSC株はES細胞様の形態を示し、多能性マーカー遺伝子であるNSNOG, SOX2, OCT4, SSEA-4, TRA-1-60の発現と、3胚葉への分化能、テラトーマ形成能を示し、包括的遺伝子発現解析により線維芽細胞から多能性細胞へのリプログラミングが証明された。

 75 baseの単鎖オリゴDNA導入法により、1塩基レベルのゲノム編集が可能であることは既に示されており、この手法によりSMN2遺伝子のexon7中に存在する1塩基変異をSMN1類似の配列へ置換させることで、exon7を保持する表現型へほぼ永続的かつ遺伝的に安定に改変させることが出来た。全体としては232クローンの内10クローンが遺伝子的改変による修復に成功し約4%の効率であったが、遺伝的には少なくとも12継代まで安定であり、なおかつ多能性を保持していること、SMNタンパクレベルでも全長の正常型同様の発現亢進(安定化)が起きていることを確認した。

 次にこのような遺伝的改変が、運動性ニューロン機能を正常化させるかどうかを解析するために、すでにES細胞を用いて樹立されたプロトコール、レチノイン酸とヘッジホッグ遺伝子(SHH)を用いて脊髄性運動ニューロンへ分化誘導処理を行った。およそ4-5週間後には、分化特異的転写因子HB9, ISLET1ならびに脊髄前駆細胞マーカーOLIG2等の発現が認められた。HB9と ISLET1両者を発現するニューロンでは、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT) とSMI32を発現し、運動ニューロンへの分化を確認した。一方、本プロトコールではGFAP陽性アストロサイトへの分化は1%以下であった。疾患由来SMA-iPSCから分化させた運動ニューロンの特性としては、正常iPSあるいはES細胞に由来するニューロンと比較し長期培養条件下では生存率の低下が顕著であり、また培養8週間後のニューロン数ならびにサイズも低下していたが、遺伝子修復後に分化させたSMA-iPSCsではニューロンの数ならびにサイズも正常レベルに回復していた。同様に、axon 長とgrowth coneの回復がみられたほか、機能的な指標としてmyotubeと共培養した際に形成される神経筋接合部の数ならびにサイズについて検討したところ、正常由来と同等の回復がみられた。

 では、SMAモデルマウスで報告されるRNA ならびにスプライシングの異常はヒトSMA疾患における運動ニューロン死を説明できるのだろうか、そしてSMA-iPSCsを用いて遺伝子異常を修復することが治療につながるのだろうか。そこで、SMA疾患由来運動ニューロン細胞(SMA-iPSC-MN-1)と遺伝的修復後に分化させた細胞 (TR-iPSC-MN-1)、正常由来細胞(HET-iPSC-MN-1)との間で遺伝子発現ならびにエクソンアレイ解析を行い、Volcano プロット等の手法により比較検討した。すると、発現量が異なる遺伝子は2452種類にも上り、SMAで低下している遺伝子は、細胞骨格、神経分化、シナプス形成等に関与するものであった。一方、修復前後で発現量が変化する遺伝子は626種類で、修復後に上昇する遺伝子の多くは、正常と比べSMA疾患で低下していた遺伝子であった。またFIRMA 法によりSMAでスプライシングの異常が見られた2つの遺伝子、転写抑制因子BCLAF1とGTP交換因子DOCK5についても遺伝的な修復後は発現が上昇していた。異なるプローブセットを用いた解析により、これらの他TPM3, COBL, OGFR, MSL3, WDR7等の遺伝子がSMA疾患でスプライシング異常による発現量の変化が見られ、遺伝的修復後に回復することがわかった。SMA疾患運動ニューロンでの遺伝子発現低下がみられる代表例のいくつかをウェスタンブロット法によってタンパク発現量を解析したところ、実際にSTMN2タンパクとPLP1タンパクについてはSMA-iPSCs由来運動ニューロンでは発現量の低下が確認されるとともに、修復後は発現量の回復が確認された。このことから、オリゴヌクレオチドを用いた遺伝的改変による修復は、細胞特性の正常化に有効であることが示された。また、正常とは異なるスプライシング遺伝子産物は、すべてがスプライソソームで処理されるわけではないので、おそらく軸索ガイダンス、神経分化、シグナル伝達を介して何らかの病態に関与すると予想された。

 このような細胞レベルでの遺伝子修復の有効性が認められたことから、生後1日目のSMAモデルマウスへ遺伝子修復後のGFP標識ヒトSMA-iPSCsを脊髄移植し、個体レベルでの安全性と治療への有効性を検証した。すべての移植マウスで脊髄前角灰白質にヒト由来GFP標識運動性ニューロンの生着が確認され、それらは運動性ニューロン特異抗原とコリン作動性を示すHB9, ChATを発現していた。SMA-iPSCsと比較するとヘテロSMA由来や正常iPS由来運動ニューロンの方が生着性に優れており、神経軸索の伸長や骨格筋での神経筋接合が観察された他、移植による内在性運動ニューロンサイズの増大、筋量の増加等が観察された。さらに驚くべきことに、移植マウスでは体重の増加、グリップテスト等による運動能力向上の他、生存率も上昇がみられており、SMAマウスの平均寿命は14日であるが、正常iPS由来運動ニューロン移植マウスならびに遺伝子修復後のSMA-iPS由来運動ニューロン移植マウスの平均寿命は21日、最大24日であった。およそ50%の寿命延長を獲得したこととなる。

 また、このような運動ニューロン移植によりNT3, NT4, VEGFといった神経栄養因子のvivo局所での増大がshRNAやELISA法により確認されたことから、これらの神経保護作用が疾患モデルマウスの改善に関与していることが示唆された。

 以上のように、挿入変異を起こすベクターを用いることなくヒトSMA疾患患者からiPSCsを作成し運動ニューロンへ分化させることで疾患モデル細胞を生成させ、正常とは異なる運動ニューロン変性が起きていることが確認された。さらにオリゴヌクレオチド法を用いて、疾患の原因となっている内在性SMN2遺伝子が通常通りのexon 7をコードするように修復し、安定的に完全長の修復SMN遺伝子発現を誘導することに成功した。遺伝的修復後のSMA-iPScについて運動ニューロン分化後の表現型の解析、遺伝子発現解析、スプライシングゲノム解析を行い、その遺伝的特性についても実証すると共に、SMAモデルマウスへの脊髄移植の有用性を示した。今後、臨床応用を実現するまでの安全性管理というハードルはあるが、疾患モデル細胞の作成とその遺伝的な改変による表現型の修復が実現可能であることを示し、自家細胞による治療への期待がふくらむ大きな一歩である。

*イタリア フェラーリ氏の寄附による研究所で、筋ジストロフィーによる遺児ディーノの名を冠した。

(解説:本間美和子)

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