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A kinase inhibitor screen identifies small-molecule enhancers of reprogramming and iPS cell generation.

A kinase inhibitor screen identifies small-molecule enhancers of reprogramming and iPS cell generation. Li-Z and Rana-T
Nature Communications 2012 Sep 25;3:1085. doi: 10.1038/ncomms2059.

iPS細胞作製技術は、近い将来への臨床応用を目指してより安全な新手法が開発されているが、作製効率が低いという課題がある。初期化のメカニズムそのものについても未解明の分野であることから、この生物学的な謎を解くことで、「完全に初期化した多能性細胞」をより効率良く作製するための技術開発も期待される。このような観点から、米国スタンフォード‐バーナム医学研究所のグループは、増殖や分化における細胞内シグナル伝達系に重要な役割を果たす「タンパクリン酸化酵素(以下、キナーゼ)」に着目し、それらの活性を阻害する多数の低分子化合物の中からiPS細胞作製効率の上昇を指標にスクリーニングを行うと共に、併せて初期化に関与する情報伝達系の解明をも試みた。その結果、MAP キナーゼの一種として知られるp38の他、イノシトール3リン酸 (IP3) キナーゼ(以下、IP3K)、Aurora Aキナーゼ(以下、AurkA)については、それぞれ特異的な阻害剤を添加した場合と、これら3種のキナーゼをsiRNAでノックダウンさせた場合に、iPS細胞作製効率が上昇する結果が得られ、これらは初期化を制御するキナーゼであることが示唆された。

具体的には、キナーゼ阻害剤としての作用機序が明らかにされ、なおかつ細胞膜透過性の化合物244種類に着目した。初期化の指標として内在性Oct4遺伝子が発現するとGFP遺伝子が発現し蛍光色を発するように遺伝子改変したマウス由来線維芽細胞を用い、培養プレートに播種した後、それぞれレトロウイルスベクターに組み込んだ4種類の遺伝子を導入した(第1日目)。翌日、3000細胞ずつを96ウェルプレートの1ウェルずつに蒔き直し(2日目)、3日目に最終濃度2μMとなるように各種阻害剤を培地に添加した。その後13日目まで毎日、阻害剤入りの培地交換を繰り返し行ったあと、細胞をパラフォルムアルデヒドで固定して、Oct4遺伝子発現の下流に誘導されるGFP蛍光の有無を判定した。

化合物の溶媒であるDMSOを加えた場合には、1ウェルあたり2,3個のGFP+コロニーが観察され、リプログラミング効率は通常の範囲内であるおよそ0.07%であった。この効率を2.5倍以上変化させる化合物を二重盲検法により判定し、11種類はリプログラミングを上昇させることから「バリアーヒット」と命名した。一方、この効率を低下させる化合物はリプログラミングに必須の役割を果たすキナーゼに対する阻害剤である事が予想されるので、細胞数減少など毒性を反映していないこと、なおかつアルカリフォスファターゼ発現を誘導しないことを確認した上で、9種類の化合物がこの範疇に入ると結論し、「エッセンシャル(必須の)ヒット」と名付けた。このうち4種類は、細胞周期進行に重要な役割を果たすサイクリン依存性キナーゼ(Cdks)阻害剤であった。

最初の目的であるiPS細胞作製効率の上昇に貢献するキナーゼ阻害剤を同定する目的で、1次スクリーニングでバリアーヒットに分類された11種類の化合物について、2種類のドーズ(1μM, 2μM)等による2次スクリーニングを実施したところ、4種類の阻害剤(B4,B6, B8, B10)について、リプログラミング効率上昇への有効性が示された。たとえば化合物B6, B8, B10は0.5μM程度で効率化がみられ、1μMで3種類を同時に添加すると相乗効果が認められた。しかし、かねてよりリプログラミングのバリアーとして知られるp53をノックダウンした場合に見られるiPS作製効率上昇の際には、これら3剤の効果は見られなかった。

これら阻害剤の作用特異性を明らかにする目的で、あらかじめMEF細胞を各種キナーゼに対するsiRNAによりmRNAをノックダウンした上で4因子を導入し、先のプロトコールに準じて12日後にGFP+コロニー数を判定した。その結果、リプログラミングに対するバリアー機能を有するキナーゼとして、Mapk11(p38b), ItpkA, AurkA, Sykが同定され、1種類でも欠けるとリプログラミング効率が著しく上昇することが確認された。

さらに、多能性という観点から、これらを利用して作製されたiPS細胞(iPSC)の特性をマウスES細胞(mESC)と比較検証した。Nanogや表面抗原であるSSEA1の発現、他のmRNA発現プロファイルについてもiPSCはmESCと非常に類似のパターンを示していたが、元のMEFとは明らかに異なっていた。また、分化能についてはEB(胚体)形成能を調べたところ、拍動する心筋を有する胚の他、AFP(内胚葉)、チューブリンIII(外胚葉)、アクチン(中胚葉)染色陽性であり三胚葉への分化能が観察された。また、iPSCによるテラトーマの形成、キメラマウスの誕生も確認したことから、阻害剤処理により完全にリプログラムされたiPSC作製に成功したことが示された。

最後に、これら阻害剤がキナーゼをターゲットとしてリプログラミングに関与するメカニズムについて検討を行った。これまでの研究から、mESCまたはiPSCsではAurkA mRNAならびにタンパク量の増大と、リン酸化GSK3β(不活性型)の減少と活性化が観察される一方で、GSK3β阻害剤がiPS作成効率を上昇されることも知られていた。そこでAurkAとGSK3β両者の関係を明らかにすべく、化合物B6ならびに他のAurkA阻害剤、MLN8237を用いたところ、両阻害剤ともに濃度に依存してリン酸化GSK3βレベルが上昇した。この結果から、化合物B6によるリプログラミング効率化はAurkA阻害によりGSK3βの不活化を介する作用であると示唆され、この予想はAurkAノックダウンやAurkA活性変異体による解析等で確かめられた。また、AurkA阻害時のGSK3βリン酸化に関与するキナーゼはAktであること、MLN8237を低濃度処理(10nM)した場合にもリプログラミング効率は4倍上昇すること、その際にはmESCと同様な遺伝子発現が見られることが示された。また、本研究により初期化のエンハンサーとしてIGF受容体(Igf1r)が浮上したが、PI3K経路を介してAktを活性化することで、効率化に関与すると考えられる。

これまで、iPS細胞作製効率を上昇させるため、また4因子に置き換わる化合物を探索する目的で、大規模ランダムスクリーニング等が検討されてきたが、クロマチンリモデリング阻害剤の他は、唯一TGF受容体キナーゼ阻害剤がSox2, c-Myc遺伝子に置き換わってNanog遺伝子を誘導することが示された他、間葉系細胞から上皮系への移行がリプログラミング初期に起こる重要なステップであることが明らかになっている。本論文はリプログラミングの生物学的なメカニズムの解明を念頭に置いて、リン酸化酵素の作用機序からiPS細胞作成効率を高めるための作用点を明らかにし、それを標的とする化合物の有効性を検証しようと試みたものである。初期化のバリアーとなる3つのキナーゼ、p38, IP3K, AurkA, が阻害剤スクリーニングから見出されたが、従来から報告されているようにp53をノックダウンしたMEF細胞を利用した場合には、これらの阻害剤の効果をはるかに超える高効率化が実現できたことも確かである。しかしながら、これらのキナーゼがリプログラミングの過程に関与することが示されたことから、具体的な作用メカニズムの解明は生物学的な理解として重要である。これまで、初期化細胞にも多様性があることから、リプログラミングの過程の複雑さが予想されていたが、完全な多能性を有する完璧なiPS細胞作製への効率化、そして安全性を確保するために、時間を巻き戻すという生物学的なプロセスをシグナル伝達の観点から解明することも大変意義がある。

(解説:本間美和子)

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