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HIF1 induced switch from bivalent to exclusively glycolytic metabolism during ESC-to-EpiSC/hESC transition.

HIF1 induced switch from bivalent to exclusively glycolytic metabolism during ESC-to-EpiSC/hESC transition.
Zhou W, Choi M, Margineantu D, Margaretha L, Hesson J, Cavanaugh C, Blau CA, Horwitz MS, Hockenbery D, Ware C, Ruohola-Baker H.
EMBO J. 2012 Mar 23;31(9):2103-16. doi: 10.1038/emboj.2012.71.

マウス胚性幹細胞(mESC)とマウスの着床後胚の原始外胚葉から樹立されるエピブラスト幹細胞(EpiSC)では遺伝子発現や分化能力が異なっており、ヒト胚性幹細胞(hESC)はmESCよりはEpiSCsに近いステージにあることが知られている。本論文では、mESCとEpiSC/hESCの両者では、エネルギー産生に寄与する代謝機能が異なることを報告した。著者らは、生体エネルギーの観点から、ミトコンドリアDNAコピー数、細胞ATPレベル、酸素消費率(OCR)、細胞外酸性度(ECAR)をmESC, hESC, EpiSCの3種類の細胞間で比較検討した。するとhESC, EpiSCは糖代謝を主なエネルギー源とするのに対し、mESCでは環境に応じて嫌気性・好気性代謝の双方を使い分けていた。代謝機能の転換に重要な役割を果たす分子としてHIF1α、ならびにアクチビンシグナルの関与を明らかにしたことから、多能性という生物学的な特徴について生化学的な代謝機能の特性も加わることになった。

OCRはミトコンドリアでの呼吸鎖活性を反映し、ECARは糖代謝によりピルビン酸から産生された乳酸が細胞外に排出されることを反映する。3種の多能性細胞についてそれぞれ2種類ずつの細胞株を用意し解析を行った結果、EpiSC とhESCはmESCに比較してOCRレベルは非常に低くミトコンドリア機能が低いと考えられた。一方、グルコース添加時のECARレベルは著しく高く、これらの細胞では糖代謝が優位であることを示した。ECARレベルについては、呼吸によるモノカルボン酸、CO2産生をも反映する場合があるので、糖代謝により産生された乳酸モル数も計測し差異があることを確認した。さらに、EpiSC とhESCはグルコース添加時のATP産生レベルがmESCよりも高く、糖代謝が高まっていることが確認されたが、細胞内ATPレベルはmESCよりも低くATP消費の亢進が示唆された。こうした代謝変化はどのように起こるのか、そして細胞の多能性にどのような影響を及ぼすのだろうか。

細胞を、糖代謝阻害剤である2-デオキシグルコース(2-DG)存在下で培養したところ、EpiSC とhESC細胞のECARレベルは低下し、mESCのように糖代謝に置き換わる呼吸機能を上昇させることもできず、生存することができなかった。また、乳酸脱水素酵素阻害剤oxamateは、ピルビン酸から乳酸への変換を阻害するが、mESC細胞ではクエン酸サイクルによってミトコンドリアで酸化され呼吸鎖を活性化する。しかし、mESCで見られたOCR上昇はEpiSC とhESC細胞では観察されなかった。EpiSC とhESC細胞ではミトコンドリア呼吸機能が低いために、生体エネルギー産生は糖代謝が唯一の経路であることを示している。

mESCでは呼吸鎖複合体と酸化的リン酸化の共役によるミトコンドリア機能が高いと考えられるが、3種の細胞をATP合成阻害剤オリゴマイシンに続いてFCCPで処理した場合、mESCではミトコンドリア活性レベルを反映し、他の細胞に比してOCRレベルが最も高かった。一方、EpiSC とhESCでのミトコンドリア機能低下は、細胞内ミトコンドリア数の低下によるのか、あるいは発生初期の未熟さによる機能不全なのかを調べるために、透過型電子顕微鏡により観察したところ、EpiSC とhESCではmESCに比べ形態学的には成熟型と考えられる伸長したミトコンドリアが3-5倍多く観察された。またミトコンドリアDNAコピー数はmESCより多く、これらの観察結果からはEpiSC とhESCでの呼吸機能低下を説明できなかった。

そこでmESCに比べマウス胎児性線維芽細胞(MEFs)とEpiSC ではミトコンドリア膜電位が低いことに着目し、膜電位に関する複合体機能に問題があるのではないかと予想した。mESC とEpiSC細胞を用いて遺伝子発現アレイ解析を行った結果、ミトコンドリア複合体Iならびに複合体IVで発現する遺伝子の大部分がEpiSCでは低いレベルに抑えられており、特にチトクロームcオキシダーゼ(COX)遺伝子ファミリーについては核DNAがエンコードする22遺伝子の内20遺伝子の発現が抑制されていた。さらにmESC細胞と比較すると、EpiSCではCOX mRNA発現が強く抑制され、COXタンパクの生成と複合体形成が不全となっていることが考えられた。実際にミトコンドリア画分のCOX活性を調べると、EpiSCならびにhESCではヒトESC細胞株であるH1, H7に比べおよそ40%低下していた。その他、EpiSCでは、複合体IVに関与するチトクロームc合成酵素(SCO2)、ミトコンドリア酸化反応とエネルギーバランスに関与するPGC-1β、エストロゲン受容体類似分子Essrb/ERR-β等が発現低下していることが明らかになった。ミトコンドリア機能は複合体IVの機能が律速となり呼吸機能を制御していることから、EpiSC とhESCはmESCに比べ複合体IVを構成する分子群が低いレベルにあることが、ミトコンドリア機能低下の理由として説明できる。

二つの細胞ステージにおける代謝機能の相違が、実際の生体内で起きているかどうかを確かめるために、胚の内部細胞塊(ICM)と胚移植後のエピブラストからそれぞれmRNAを抽出しハイスループットディープsを行ったところ、ICMに比べエピブラストでは実際にCOX 遺伝子発現量が著しく低下しており、それらの制御因子であるPGC-1、Essrb/ERR-β発現量との相関も強くみられた。この結果から、生体内でICMからエピブラストへ移行する過程でミトコンドリアCOX遺伝子のダウンレギュレーションが起こったと示唆された。

さらに、遺伝子発現解析の結果から、多能性という観点ではHIF1αが重要な要素となることが見出された。EpiSCではmESCに比べHIF1αタンパク発現量は著しく増加している他、HIF1α下流の遺伝子であるPDK1, LDHA, PYGL発現量が10倍から70倍発現増加していた。そこで、mESCにレトロウイルスベクターでHIF1α遺伝子を過剰発現、あるいは低酸素状態を誘導するCoCl2処理により一過性にHIF1αを発現させ、3日間にわたりLIFを添加した条件で培養した。すると、形態学的にEpiSC様のコロニー形成が増加するとともに、ミトコンドリア呼吸機能が低下し糖代謝が高まるなど、代謝的にもEpiSC様の細胞への変化が認められた。またHIF1α発現を誘導した後6日以上経過すると、分化系列マーカーであるCer1, 糖代謝遺伝子LDHA,代謝関連遺伝子Cox7a1, Esrrbが発現する等、EpiSC細胞様の遺伝子発現レベルの変化が認められるようになったと述べている。

培養条件ではEpiSC状態の維持にアクチビンは必須であり、アクチビン(-)の条件下ではEpiSCは神経内胚葉へと分化することが知られている。一方mESCは多能性維持にアクチビンを必要とせず、添加によりEpiSCへシフトすることが知られている。そこで、HIF1α発現によるmESCからEpiSCへのシフトがアクチビンシグナルを介しているのかどうかを調べた。CoCl2処理により細胞内HIF1αを発現させるとmESCコロニーの50%がEpiSC様細胞へ移行したが、アクチビンシグナル阻害剤であるSB431542(ALKi)存在下では0%であったことから、Activin/Noda1シグナルが関与することが明確になった。さらにアクチビンとFGF刺激によりmESCからEpiSCへの移行が誘導される際にも、HIF1αタンパクが安定的に発現することが重要であり、糖代謝関連遺伝子LDHAの発現亢進とミトコンドリア機能に関与するCox7a1, Esrrbの発現低下も起こっていた。これら代謝関連遺伝子発現の変化は、EpiSC細胞系列を決定するための遺伝子発現に先行して起こることが明らかとなった。

すなわち、EpiSCは癌におけるワールブルグ効果と同様に嫌気性糖代謝が主たるエネルギー産生系であるのに対し、mESCは環境に応じて糖代謝から好気的呼吸鎖への動的変換を行うことで酸素消費によるエネルギーを利用する。その理由として、EpiSC/hESCならびに生体内エピブラストではチトクロームCオキシダーゼ(COX)発現量の低下により、ミトコンドリアにおける呼吸機能が低かった。さらに、低酸素で誘導される細胞内因子のひとつHIF1αをmESC細胞に発現させると、代謝の特性に続いて系列遺伝子発現等がEpiSCと類似のステージへと誘導された。この際、アクチビンシグナル経路は、EpiSC細胞を決定づけるために重要な代謝関連遺伝子の制御に重要な役割を果たすと考えられた。以上のように、本論文では初期幹細胞において代謝機能の変換が起こることが、細胞特異性の決定に重要な役割を果たすことを報告し、初期発生やリプログラムの仕組みを理解する新たな手掛かりを与えるものとして注目される。

(解説:本間美和子)

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