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An antibody against SSEA-5 glycan on human pluripotent stem cells enables removal of teratoma-forming cells.

An antibody against SSEA-5 glycan on human pluripotent stem cells enables removal of teratoma-forming cells.
Tang C, Lee AS, Volkmer JP, Sahoo D, Nag D, Mosley AR, Inlay MA, Ardehali R, Chavez SL, Pera RR, Behr B, Wu JC, Weissman IL, Drukker M.
Nat Biotechnol., published online August 14, 2011.

 ヒトiPS細胞(hiPSCs)やヒト胚性幹細胞(hESCs)の臨床応用に際する安全性の確保には、目的の細胞へ分化誘導した後、ヘテロな細胞集団の中に残存する癌化の可能性を有する細胞の除去が必要である。米国のグループより、そのような細胞集団を見分ける手段としては、細胞表面抗原に結合する抗SSEA-5(anti-stage-specific embryonic antigen 5 )抗体が有望であることが報告された。

 本抗体は、未分化hESCsを抗原として作製したモノクローナル抗体の一つで、hiPSCsやhESCsなどのヒト多能性幹細胞(hPSCs)に高発現するH-1型糖鎖抗原を認識する。hESCsでは高発現がみられるものの、レチノイン酸やBMP4による分化誘導後は発現レベルの減少が著しく、未分化細胞マーカーとしては、TRA-a-81, SSEA-3と比較しても最も有望であると考えられた。また、体外受精(IVF)後の胚盤胞期ヒト胚(E6)では、ES細胞のもととなる内部細胞塊でSSEA-5発現が特異的に観察されることを確認した。一卵性の二つの内部細胞塊でも、周囲と顕著に区別される発現がみられた。12週齢のhESCs由来テラトーマ細胞塊の観察から、約2%の細胞がSSEA-5陽性であり、テラトーマ幹細胞様の形態が示唆された。そこでH9-hES細胞株に由来するテラトーマ細胞塊からSSEA-5発現陽性細胞と陰性細胞をフローサイトメトリーにより分離し、別々にin vivoでのテラトーマ再形成能を調べた。すると、7つのSSEA-5陽性細胞集団は移植後大きなテラトーマを形成したのに対し、陰性細胞は11に分けた細胞集団のうち3つで小さなテラトーマを形成した。hESCsの分化と関連する解析から、SSEA-5は造血系ではCD34(-)CD43(-)細胞での発現が観察され、細胞の未分化状態やテラトーマ形成能とリンクする発現が確認された。

 SSEA-5抗体を用いた細胞膜免疫沈降画分を生化学的に解析すると、複数のタンパクバンドが得られたが、質量マス解析でも単一タンパクとして同定することはできなかった。その理由としては、糖タンパクとしての糖鎖部分の多様性が考えられることから、糖鎖オミクッス・コンソーシウムの糖鎖アレイを用いてSSEA-5が認識する多糖構造を解析したところ、H-1抗原としても知られる"Fuc1-2Galβ1-3GlcNAcβ"配列モチーフであることが判明した。これはタンパクのO-またはN-基結合型の原始的な糖鎖で、ルイス式血液型、ABO式血液型のもととなる構造である。hESCのレチノイン酸による分化誘導の際には、糖鎖骨格がタイプ1型(Lewis(a),H-1)からタイプ2型(CD15/SSEA-1/Lewis(x),H-2)へ変換すること、他の多能性細胞でも同様の変化が起こることが知られている。

そこで、レチノイン酸(RA)分化誘導後2週間を経たhESCから、フローサイトメトリーにより本抗体への結合能を有する細胞を除去することを試みた。すると、7週間後にはコントロールの8つの細胞集団すべてが大きなテラトーマを形成する条件下、抗SSEA-5結合細胞を除去した細胞集団はテラトーマ形成能が著しく低下しており、8分の3の割合で小さなテラトーマを形成し、増殖活性も低下していた。しかし、SSEA-5発現細胞を除去するタイミングを分化誘導後の早期に設定したり、発現レベルによって分類しても、結果としてテラトーマ形成能が残る細胞集団を完全に除去することは困難であった。

 そこで、他の抗原マーカーと組み合わせることが有効であると考えられたので、多能性細胞の広範な分化段階に対応する抗原として、既知のCD9, CD30, CD50, CD90, CD200を選んで多能性表面マーカー(PSMs)と名付け、細胞の分化度とPSM発現レベルとの相関を調べた。たとえば、レチノイン酸処理による分化誘導に際しては、CD9, CD50, CD90, SSEA-5の4種類を共発現する細胞集団の割合は分化に伴い減少し、RA処理3日後には52%、10日後には3%となる。120種類のヒト多能性細胞を含む、27000細胞種に及ぶヒトマイクロアレイ解析から、上述した3種類のPSMが同時に高発現することで多能性細胞とそれ以外の細胞とを区別することが可能であること、言い換えると、残存する幹細胞や前駆細胞を検出するためには、複数のPSMが共発現するかどうかが指標となることが示された。実際に、SSEA-5/CD9/CD90 3種類 の発現レベルが低い細胞集団と、SSEA-5/CD50/CD200の発現が低い細胞集団では、テラトーマ形成が観察されなかった。

 一方、すでに多能性マーカーとして知られるTRA-1-81/SSEA-4については、それらを最も低いレベルで発現する細胞集団でもテラトーマを形成したことから、テラトーマ形成能のある細胞集団を検出して仕分ける抗原としては有効ではないことも明らかとなった。

 本論文は、臨床応用を実現させる際に必要な安全性の担保という観点から、多様な分化レベルの細胞集団から、癌化能を有する細胞を確実に除去する手法の開発を試みたものである。今回、抗SSEA-5と同時に2種類のPSMsモノクローナル抗体の併用により、hESCsを分化させた集団の中からテラトーマ形成能を有する細胞をほぼ完全に除去することに成功した意義は大きいと考えられる。今後、多能性幹細胞とそれぞれの分化段階にある細胞を用い、細胞表面マーカーの種類と発現レベル等のパネル化を実現することで、有益な細胞と除去すべき細胞とを選別する新たな指標が見出される可能性がある。また近年、hESCs分化の過程で、スフィンゴ糖脂質の種類がglobo-, lacto-型からシアル酸を含有するganglio型へ変化することが知られているが、本論文は、多能性幹細胞が分化段階へシフトする際に、生体の糖鎖合成系が変換する可能性をも提唱している。分化の方向性と、生物学的な特異性を決定するメカニズムの解明に、特異性と多様性に満ちた糖鎖構造という側面から、生化学、組織化学、またバイオインフォマティクスの手法を用いて、地道に明らかにする重要性も示唆している。

(解説:本間美和子)

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