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Multiple targets of miR-302 and miR-372 promote reprogramming of human fibroblasts to induced pluripotent stem cells.

Multiple targets of miR-302 and miR-372 promote reprogramming of human fibroblasts to induced pluripotent stem cells.
Subramanyam D, Lamouille S, Judson RL, Liu JY, Bucay N, Derynck R, Blelloch R.
Nat Biotechnol. 2011 May;29(5):443-448.

 現在、ヒト体細胞からiPS細胞を誘導する方法は多岐にわたるが、さらなる効率的作製法について多くの報告が相次いでなされている。

 本報告では、ヒト体細胞からiPS細胞を誘導する際にマイクロRNA(以後miRNA)と呼ばれる数塩基からなる小さなRNAを加えることで、4因子(OCT4, SOX2, cMYC, KLF4)もしくは3因子(OCT4, SOX2, KLF4)のみを加える従来の方法より効率よくiPS細胞を作製できることを示している。

 これまでに、マウス体細胞をiPS細胞に誘導する際に4因子とあわせてES細胞特異的な細胞周期を制御するmiRNAを補助的に添加することで、作製効率が上昇することが知られていた。そのことから筆者たちはヒト体細胞においてもヒトES細胞特異的な細胞周期を制御するmiRNAを添加することでiPS細胞作製効率が上昇するのではと考えた。今回使用したmiRNAはmiR-302とmiR-372である。この2つのmiRNAをそれぞれ単独もしくは4因子と共に、または3因子と共に、ヒト体細胞に導入したところ、4因子もしくは3因子単独の場合よりiPS細胞の誘導効率が上昇することを見いだした。次に筆者たちはこれらのmiRNAを補助的に添加して誘導したiPS細胞の遺伝子発現状態を調べたところ、ES細胞で特異的に働く遺伝子群の発現を確認した。

 miRNAを補助的に添加して効率よくiPS細胞が作製できる原因を調べるために、筆者らは4因子と2種類のmiRNAを単独、又は両方を添加した場合と、3因子と2種類のmiRNAを単独、又は両方を添加した場合、さらに2種類のmiRNAを単独もしくは両方添加した場合の計12通りの条件下での遺伝子発現状態を比較した。その結果から、miRNA単独添加した場合に比して、12種類の遺伝子の発現が有意に低下することがわかった。これら発現の低下した遺伝子は、細胞周期やエピジェネティック制御、小胞輸送やシグナル伝達に関連する遺伝子であった。

 そこで、miRNAを補助的に添加した場合に低下するこれらの遺伝子をそれぞれ1つずつ抑制することでiPS細胞を効率よく誘導できるのではないかと考え、4因子もしくは3因子と併用するそれぞれの遺伝子の発現を阻害する物質を添加して検証した。その結果、4因子と併用する場合にノックダウンをおこなった遺伝子のうち5つが、また3因子と併用する場合には4つの遺伝子のノックダウンが、iPS細胞の作製効率を上昇させる効果があった。これらのことから、miRNAを添加してiPS細胞を誘導した場合、いくつかの遺伝子が制御されることで、iPS細胞を効率よく誘導できることが示唆された。

 次に筆者らは抑制された12の遺伝子の中からRHOCとTGFBR2の2つの遺伝子に注目して解析を行った。miR-307およびmiR-372を添加した場合にこれらの遺伝子の発現が抑制されることから、2つのmiRNAのターゲットになっているのではないかと考えたためである。iPS細胞を誘導する際に2つのmiRNAを添加してRHOCおよびTGFBR2の発現状態を調べたところ、実際にこれらのタンパク量が低下していることを観察した。

 RHOCとTGFBR2は上皮-間葉転換に関与する遺伝子である。近年、マウス繊維芽細胞からiPS細胞を誘導する際に、リプログラミングの初期に間葉-上皮転換が起こっていることが示された。そこで筆者たちはmiR-302およびmiR-372がヒト体細胞のiPS細胞誘導の際に間葉-上皮転換を促進することでiPS細胞誘導効率を上げているのではないかと考えた。実際に、2つのmiRNAを添加してみたところ、間葉系で発現し上皮への分化を抑制する遺伝子の発現が制御され、上皮での発現が見られる遺伝子が上昇した。

 最後に筆者らは、これらのmiRNAがどのようにして上皮-間葉転換を抑制しているかについて調べた。ヒト由来ケラチノサイトを用いてTGFβ添加の有無およびmiR302bおよびmiRNA-372の添加によってケラチノサイトが上皮--間葉転換を起こすかどうかを調べた。その結果、miRNAを添加していない培養条件では、上皮細胞に特異的に発現する遺伝子の発現が低下し、形態学的な変化が見られた。しかし、miRNAを添加したケラチノサイトはTGFβを添加した培養条件で長時間培養しても形態の変化が見られなかった。さらに、TGFβによって誘導される上皮-間葉転換においてmiRNAを添加することで、上皮細胞特異的遺伝子を制御する転写因子が有意に低下することを示し、上皮-間葉転換を抑制したと考えられた。

 本論文は、体細胞からiPS細胞に変化する過程に関与する遺伝子に着目し、miRNAを利用してiPS細胞の作製効率を上昇させることに成功した。今後、本方法を使用して作製したiPS細胞の安全性や分化能を示すデータが明らかにされると考えられる。

(出口 勝彰)

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