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Efficient Generation of Hematopoietic Precursors and Progenitors From Human Pluripotent Stem Cell Lines.

Efficient Generation of Hematopoietic Precursors and Progenitors From Human Pluripotent Stem Cell Lines.
Woods NB, Parker AS, Moraghebi R, Lutz MK, Firth AL, Brennand KJ, Berggren WT, Raya A, Belmonte JC, Gage FH, Verma IM.
Stem Cells. 2011 Jul;29(7):1158-1164.

 iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞は、様々な組織に分化できる能力を保持しており、再生医療へ応用が期待されている。多能性幹細胞を用いて血球系の細胞を分化誘導する取り組みが数多くの研究室において行われているが、成熟した血球細胞に分化させる効率は低いためさらなる分化誘導系の改良が必要と考えられている。本論文では、多能性幹細胞から効率よく血球系細胞に分化させる方法について報告している。

 まず、筆者らは体外で血液細胞を分化させる過程が、中胚葉、血管芽細胞/造血内皮細胞から特定の刺激が供給され、造血幹細胞/前駆細胞、造血細胞の成熟及び増殖、といういくつかのステージに分割できることに着目した。
まず、多能性幹細胞を中胚葉へ分化させる条件下にBMP4を加えembryoid bodies(EBs)を作製することによって効率よく血液細胞(CD45+)が得られた。さらに、その培地にTGFβ1を添加するとわずかに造血細胞が増加した。
時系列的に観察をすると培養3週間目で前駆細胞(CD45+/CD34+)がピークとなり、その他の実験からもこの分化誘導法を用いる場合、造血幹細胞や前駆細胞を回収し解析するためには21日目がよいことがわかった。

 次に筆者らは血管新生に必要な因子であるVEGFを分化誘導培地に加えれば造血系内皮細胞の増殖を促進し、より造血幹細胞が生産されるのではと考えた。しかしながら興味深いことに、VEGFの添加濃度が低い方が高い場合に比べ血球細胞をより生産することがわかった。そのことから、VEGFを高濃度で添加するとiPS細胞やES細胞は内皮系の細胞に分化してしまい、造血幹細胞には分化しないことが考えられた。

 さらに筆者たちは、ファンコニー症候群患者の上皮細胞であるケラチノサイト由来のiPS細胞を用いて血球細胞が効率よく分化誘導できるかを調べた。血球系細胞に分化誘導する際にはEBsを形成させるが、形成させたEBsを浮遊させた状態で培養した場合と接着させた状態で培養した場合、造血細胞の細胞数は同様であった。しかし、EBsを基質に接着させて培養した場合、より成体内の環境に似ているために前駆細胞の割合が高いことがわかった。

 これまでに示したプロトコール(BMP4添加培地EBsへ分化誘導する、VEGFの添加量を減らす、EBsを接着培養する)を用いて、いくつかのヒトES細胞とiPS細胞を用いて造血幹細胞を誘導できるかを検討した。この際使用した細胞は、2つの異なった線維芽細胞由来のiPS細胞、ファンコニー症候群患者のケラチノサイト由来iPS細胞、ヒト臍帯血由来iPS細胞とHUES3およびH1の2つのES細胞を用いた。
これらの細胞は、どれも効率よく造血細胞ならびに前駆細胞に分化することがわかり、その他にもより分化した血球系細胞(マクロファージ、赤血球など)が確認できた。
しかしながら、筆者たちは多能性幹細胞から分化させた造血細胞をマウスに移植実験した結果、数匹のマウスにおいて一時的に定着したものの移植後10週目でほとんど消失した。

 最近、ヒト臍帯血やマウス骨髄から造血幹細胞等を増殖させる因子が多数同定されたが、いくかの因子もしくはその組み合わせで本報告の多能性幹細胞から分化誘導した造血細胞を成体内に戻しても定着は起きなかった。それらのことから、別の因子が、造血幹細胞移植後の定着と新生および既に存在している造血幹細胞の増殖に関与していると筆者らは推測している。

 今回筆者たちの示した方法は多能性幹細胞から造血細胞へ分化誘導する際にいくつかのステージに分け、胎児発生時とよく似た環境にすることでより効率よく造血細胞を分化誘導することに成功した。筆者たちはこの方法を用いて作製した前駆細胞で臨床試験や、造血幹細胞の再増殖に必要な因子の探索などに使用できると考えている。

 血液細胞を体外で効率よく分化誘導できることは医療においても非常に有用であると考えられる。現在、医療用の血液は全て献血によりまかなわれているが、少子高齢化に伴い献血人口が減っている一方で、年々医療機関で使用される血液は増加している。また血液製剤は献血された血液が材料であるが、日本国内の自給率は100%に満たず、海外より輸入した血液も使用している。
今後、より効率よく安全な血液細胞を多能性幹細胞から分化誘導できる技術がいち早く確立されれば、上記に示した問題点も解決できるのではないかと考えられる。

(出口 勝彰)

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