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Dynamic changes in the copy number of pluripotency and cell proliferation genes in human ESCs and iPSCs during reprogramming and time in culture.

Dynamic changes in the copy number of pluripotency and cell proliferation genes in human ESCs and iPSCs during reprogramming and time in culture.
Cell Stem Cell. 2011; 8(1):106-118.

Laurent LC, Ulitsky I, Slavin I, Tran H, Schork A, Morey R, Lynch C, Harness JV, Lee S, Barrero MJ, Ku S, Martynova M, Semechkin R, Galat V, Gottesfeld J, Izpisua Belmonte JC, Murry C, Keirstead HS, Park HS, Schmidt U, Laslett AL, Muller FJ, Nievergelt CM, Shamir R, Loring JF.

 ES細胞などの多能性幹細胞は、長期間の培養によって染色体の欠損や重複が起こることが知られている。ヒトの多能性幹細胞は再生医療の応用に期待されているが、染色体の数に異常のある細胞の利用は腫瘍形成などの危険性をともなうと考えられる。

 本論文では、ヒトES細胞ならびにヒトiPS細胞など多能性幹細胞の染色体の安定性について多数のサンプルを用いて調べている。その結果、多能性幹細胞において特定の染色体上で欠損や重複などが起こりやすいことを示し、安全性の観点から多能性幹細胞ゲノムのモニタリングが必要であることを述べている。

 はじめに筆者たちは、これまでに樹立されたヒトES細胞の系統を多数使用して広範囲にわたってゲノムが重複している場所を調べた。その結果、12、20、22番ならびにX染色体が広範囲に重複している系統が多い他、1、3、5番染色体にそれぞれ欠損が見られる系統があることが明らかになった。

 その他に小規模なゲノムの重複や欠損について調べると、ヒトES細胞では12番および20番染色体が特に目立って重複していることがわかった。12番染色体が小規模に重複している範囲はNANOGP1とSLC2A3を含んだ領域であり、一方20番染色体の場合では69系統中7系統のヒトES細胞と37系統中1系統のヒトiPS細胞で重複が確認された。そのうちヒトES細胞の6系統が新規メチル化酵素であるDNMT3Bの領域が重複していることが明らかになった。

 また筆者たちは多能性関連遺伝子の偽遺伝子が高頻度に重複していることを突き止めた。NANOGおよびOCT4/POU5F1には多数の偽遺伝子が複数の染色体上に存在しておりこれらの偽遺伝子の領域が重複しているヒトES細胞系統が多数あることがわかった。興味深いことにOCT4/POU5F1とNANOGの偽遺伝子の1つが欠損しているヒトES細胞系統もあった。偽遺伝子の役割は現在ほとんど知られていないがタンパクをコードする相同遺伝子の安定性に関与する報告もあり、多能性関連遺伝子の正または負の制御に働いている可能性に筆者たちは関心をよせている。

 その他にも、ヒトES細胞の継代培養中に染色体が重複することを筆者たちは示した。今回の報告ではMIZ4系統が33回から88回の継代の間に15番染色体が、59回継代されたUC06系統が112回目の継代でX染色体がそれぞれ重複することが示された。また、ヒトiPS細胞のHDF51IPS11P33系統において、由来となった線維芽細胞のHDF51では見られなかった20番目の染色体の重複がみられ、この系統のiPS細胞コロニーの70%以上が重複していることがわかった。

 次に、ゲノムの重複および欠損がiPS細胞作製時の初期化中におこるのかもしくは初期化後の継代中に起こるのかを調べた。1つの胎性線維芽細胞をもちいて12の独立したiPS細胞を樹立し継代数が5−8のものを初期継代、12−15のものを中期継代、25−34のものを後期継代として解析を行った。その結果、11の全ての欠損が初期化後の初期の継代時で、また6系統中5系統に重複が長期間の継代で起こっていることを示した。iPS細胞の5つの重複領域内にコードされている遺伝子はがん原遺伝子であり、12の欠損領域の5つはがん抑制遺伝であった。この結果から、がん抑制遺伝子を含むゲノムの欠損は初期化のプロセスに関連して起こるが、がん遺伝子等のゲノムの重複は細胞継代に伴って起こると示唆された。

 さらに、多能性幹細胞を分化誘導させた際のゲノムの不安定性について調べた。ヒトES細胞を用いて分化誘導前、誘導後3日目および7日目で調べた結果、7日目において20番染色体で3つの重複が起きていることがわかった。これらのことから分化誘導後3日目から7日目の間に重複が起きたと示唆された。ゲノムの重複ないし欠損と遺伝子発現の関係を調べたところ、多能性幹細胞の12番染色体の重複領域の遺伝子が高く発現していることがわかった。また、iPS細胞の系統においても染色体重複領域の遺伝子発現が上昇していることを示した。

 この報告からES細胞とiPS細胞共に多能性幹細胞ゲノムの不安定が証明された。本文中において、多能性幹細胞の培養中のゲノムのモニタリングが重要と述べられているが、今後は、ゲノムを安定化させる研究手法等、多能性幹細胞ゲノムの品質管理が重要になると考えられた。

(出口 勝彰)

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