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Immunogenicity of induced pluripotent stem cells

Immunogenicity of induced pluripotent stem cells
By Zhao, T. et al, カリフォルニア大学サンディエゴ校、Nature, 13 May, 2011, doi:10135

iPS細胞技術は、ES細胞のように受精卵を壊す必要がなく、また、自己由来細胞を用いれば免疫拒絶反応を回避できると期待されることから、再生医療への応用へ向けた開発競争が世界中で進められている。そんな中、本論文はB6マウス胎生線維芽細胞(MEFs)から作製したiPS細胞に由来するテラトーマが、同種同系のマウスへ移植後、T細胞浸潤を伴う免疫反応を惹起することを報告した。

著者らは多数種類の細胞移植後の免疫原性を検証するために、もっとも有効かつ簡便な方法としてテラトーマ形成法を用いた。C57マウスに由来するB6および129/SvJの2系統は遺伝的に異なる同種異系マウスと呼ばれるが、それぞれに由来するES細胞(ESCs)を準備した。B6由来ESCsを31個体の同系マウス(B6)へ皮内注射すると20~30日後に95~100%の割合でテラトーマを形成したが、異系マウス(129/SvJ)由来のESCsをB6マウスへ移植した場合は、速やかな免疫拒絶によりテラトーマは8.3%以下しか形成しなかった。

次にB6マウスに由来するMEFs細胞へレトロウイルスベクター法、または新規エピソーマルベクター法(ゲノムへの挿入を回避するため)を用いて3種(Oct4/Sox2/Klf4)または4種類(Oct4/Sox2/myc/Klf4)のリプログラミング遺伝子を導入してiPS細胞を作製した。それぞれViPSCs、またはEiPSCと名付け、正常な核型の他、幹細胞表面マーカーや多能性遺伝子の発現、SCIDマウスに於けるテラトーマ形成能があること等、を確認したのちB6マウスへ移植した。その結果、B6由来ESCsとは異なり、iPS細胞クローンはいずれもB6マウス個体でテラトーマは形成されず、ひとたび形成されてもT細胞の浸潤による免疫拒絶反応が観察された。特にViPSCsは免疫原性が高く拒絶反応が著しかった。T細胞の浸潤はOct4の持続的な発現がある場合によく観察されることから、新規エピソーマルベクターを利用する一過性の遺伝子発現を試みた。そのEiPSCsを移植した場合は効率よくテラトーマが形成されたが、T細胞の浸潤により、移植後2か月以内には10%のテラトーマで損傷と退縮が観察された。このことから、EiPSCs細胞はViPSCよりは低いものの免疫原性があると考えられた。さらに検討例を増やすため、ゲノム遺伝子への挿入など変異を起こさない他のプラスミドベクター法により、4種類の遺伝子を導入してiPS細胞を別途作製し、同様に検討したところ、B6マウス移植後に形成されたほとんどのテラトーマでT細胞の浸潤、一部では壊死も観察され、40日以内には退縮する場合も見られた。以上の結果から、iPS細胞は遺伝的に同一個体へ移植した場合にも免疫原性があると結論された。

続いて、ESCsとEiPSCsに由来するテラトーマ両者を比較した遺伝子発現解析の結果から、EiPSCs由来テラトーマに特徴的な多数の遺伝子と共に、免疫拒絶への関与が示唆される複数の遺伝子が同定された。免疫反応により退縮した6つのテラトーマに共通して発現する遺伝子解析の結果から、Lce1f, Spt1, Cyp3a11, Zg16, Lce3a, Chi3L4, Olr1, RetnおよびHormad1の9つの遺伝子が同定された。ここで、Hormad1は癌抗原、Spt1,は組織特異抗原である。さらに、免疫原性に関与する遺伝子を絞り込むために、これらの遺伝子を一つずつB6由来ESCsに発現させ、B6マウスへ移植後のテラトーマ形成能とT細胞の浸潤等を比較した。するとZg16, Cyp3a11またはHormad1遺伝子を発現させたESCsでは、30日後のテラトーマ形成率がそれぞれ12.5%, 50%, または50%にまで低下するとともに、T細胞の浸潤と広範囲の壊死が観察された。実際にZg16またはHormad1遺伝子をB6マウスから採取した抗原提示細胞である樹状細胞へ発現させ、別途同マウスから採取したT細胞と接触させた場合のみ、抗原特異的T細胞の活性化の指標となるインターフェロン ガンマ(IFN-)の産生が確認された。以上の結果から、何らかの理由でEiPSCsからテラトーマ形成の過程でESCsとは異なる異常な遺伝子発現が起こったことが、遺伝的に同一な個体へ移植した場合でもT細胞による免疫拒絶反応の誘因になったと考えられた。

以上のように本論文は、治療に有効となるiPS細胞を同一個体に移植する場合にも、あらためて免疫原性と安全性について検証する必要性があることを提示した。近年、安全性の観点からもiPS細胞技術の開発が進められているが、一口にiPS細胞と言っても元となる細胞系列(皮膚、末梢血、各種臓器など)ならびに作製手法は多様である。今回の報告によって、iPS細胞移植後に、遺伝的に同一なヒトでの免疫反応も起こりうることが示唆された。しかしながら、これまでES細胞に比して誇っていた優位性が覆されたわけではなく、むしろiPS細胞がES細胞にすぐにでも置き換わる治療法としての拙速な期待に、さらなる科学的検証と慎重さが求められることを社会に示したといえる。

iPS細胞研究は、培養シャーレ上で疾患細胞モデルを作製出来ることから、病気のメカニズムを解明しその治療法を開発するための重要なツールである、という科学的真実性に変わりはない。特にモデル動物が無い希少疾患や慢性疾患の多くを解明する際には、唯一ともいえる重要なツールである。今後、今回明らかにされたiPS細胞に特徴的な表面抗原についての研究や、免疫反応を回避するための研究が進められることにより、すでにスポットライトを浴びているiPS細胞を用いる医療への応用が、より安全で確固たるものとなるであろう。

(解説:本間美和子)

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