ピックアップ論文紹介

A Human iPSC Model of Hutchinson Gilford Progeria Reveals Vascular Smooth Muscle and Mesenchymal Stem Cell Defects

A Human iPSC Model of Hutchinson Gilford Progeria Reveals Vascular Smooth Muscle and Mesenchymal Stem Cell Defects
(Jinqiu Zhang et al, Cell Stem Cell,8(1):31-45, 2011)

早老症のひとつであるハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群 (HGPS)は、核タンパクであるラミンAの異常(プロジェリン)により引き起こされる。ラミンAの異常は、ヘテロクロマチン形成異常に引き続いてDNA傷害を亢進することが知られている。HGPSは骨格や真皮、血管平滑筋などの間葉系細胞の異常により老化という症状が出るが、それらにプロジェリンがどう関与しているかは議論の余地がある。そこで筆者らはHGPS発症の分子的なメカニズムを解明するために、HGPS患者の皮膚線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、いろいろな細胞に分化させてプロジェリンの蓄積とその影響などについて解析を行った。

筆者らは二人のHGPS患者 (ラミンA遺伝子,LMNA,のエキソン11にある1824番目のCがTに置換されるために短いラミンAタンパクを生成)の皮膚線維芽細胞を培養し、形態観察を行ったところ、HGPS患者の細胞ではプロジェリンの発現及び核膜の形成異常が観察された。そこでこれらの細胞にOCT4, SOX2, KLF4, c-Mycをレトロウィルスベクターにより導入したところ、リプログラミング効率は正常人皮膚線維芽細胞に比べてHGPS患者由来細胞で4倍程低かった。しかし、形態、未分化マーカーの発現、テラトーマ形成能、遺伝子の発現パターンなどはHGPS患者由来のiPS細胞 (HGPS-iPS)とコントロールのiPS細胞、そしてヒトES細胞で大きな違いは見られなかった。

皮膚線維芽細胞で発現していたラミンAおよびプロジェリンはリプログラミングにより抑制され、HGPS-iPS細胞では両者の発現はほとんど観察されなかった。プロジェリンの発現はHGPS-iPS細胞を分化させたHGPS-間葉系幹細胞 (MSC)で最も高く、血管平滑筋 (VSMC)、線維芽細胞、内皮細胞の順に高かったが、神経前駆細胞では最も低かった。興味深いことにHGPS-MSCでは培養日数が長くなるにつれてプロジェリンの発現が増加していったが、線維芽細胞ではそのような増加は見られなかった。HGPS患者の検体でも同様の変化が観察されることはすでに報告されており、HGPS-iPS細胞を分化させた場合も、患者の検体と同様の症状が観察されることが明らかとなった。また、HGPS患者の線維芽細胞では核の形態異常が報告されているが、HGPS-iPSを分化させた線維芽細胞でも、同様の形態異常、DNA損傷の亢進、核タンパク質LAP2の異常局在が観察された。しかし、これらの変化はHGPS-iPS細胞を神経前駆細胞や内皮細胞に分化させた場合には観察されなかった。

HGPS-MSCを骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞へ分化誘導させることが出来たが、培養日数が長くなるとプロジェリンの発現増加及び核の分裂異常が観察された。このような核の異常はLAP2の異常局在と同時に観察された。さらに培養日数の延長に伴い、DNA損傷を受けた細胞が増加していくことが分かった。MSCから分化させた、VSMCでも同様の異常が観察された。 HGPS患者由来のiPS細胞から分化させたVSMCおよびMSCでは、正常酸素分圧条件下での長期培養による核の形態異常やLAP2の局在異常、DNA損傷の亢進などが観察され、これはプロジェリンの蓄積が原因であると考えられた。そこで筆者らはこれらの細胞を、培養環境ストレスを負荷した低酸素分圧条件下で培養したところ、4-5時間でHGPS-VMSCはコントロールに比べて生存率が半分ほどになり、培養3日目には老化が促進された。また電気刺激を繰り返し与え続けると、コントロールおよびHGPS-VMSCで核の形態異常の増加や老化の促進が観察されたが、HGPS-VMSCでより顕著に観察された。

MSCのin vivoでの機能は不明であるが、骨髄由来のヒトMSCや、ヒトES細胞を免疫不全マウスの虚血性後肢に移植すると血液循環が促進される。ところがHGPS-MSCをこのマウスに移植した場合には、コントロールとは異なり循環系の回復が見られないまま、ほとんどのマウスが肢を失った。細胞移植直後の血流をレーザードップラーイメージングで解析したところ、HGPS-MSCはコントロールに比べて血流量が低下していた。さらに移植細胞の定着性については、コントロールの細胞に比べHGPS-MSCの定着は見られなかった。一方、MSCの移植による虚血の回復は血管新生によるものと考えられているが、コントロールとHGPS-MSCで産生される血管新生因子に差異は見られなかった。これらのことからHGPS-MSCで虚血性後肢が回復されないのは、血管新生以外の要因による回復異常に原因があると考えられた。

MSCはin vivoでの低酸素状態では、高い増殖能があり長期生存を示す。そこでHGPS-MSCが虚血性条件下での増殖能が失われるかを調べるため、低酸素分圧下培養したところ、正常MSCに比べ生存率の低下及びアポトーシスの亢進が観察された。これらの結果からHGPS-MSCは低酸素状態への感受性が高いことが明らかになった。そこでHGPS-MSCにプロジェリンに対するshRNAを導入し、プロジェリンのノックダウンを行ったところ、低酸素状態への適応能が回復したことから、HGPSではプロジェリンの蓄積が低酸素状態の感受性を高めていることが明らかになった。さらに、HGPS-MSCについて、低酸素以外のストレスの影響を調べるために血清を添加しない条件下で培養したところ、HGPS-MSCでは生存率が低下した。

これらの結果から、HGPS疾患由来線維芽細胞、HGPS iPSを分化させたMSC、VSMCの全てでDNA損傷、LAP2局在異常、核の形態異常が亢進し、さらにストレス環境下では生存率が低下することが明らかとなった。

今回の論文はHGPS患者由来iPS細胞を、疾患モデルとして解析を行った初めての論文である。疾患の原因と考えられる細胞内因子について、組織特異的発現レベルを解析することは、疾患の原因解明ならびに疾患の特性を明らかにする上で重要であると考えられる。ラミンA変異についても多様性が有ることから、患者個別に作成したiPS細胞を用いる治療薬開発など、疾患の克服に向けた今後への応用も期待される。

(解説 大野里奈、本間美和子)

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る